先週火曜(1月30日)、衆参本会議で岸田文雄首相の施政方針演説が行われました。自民党派閥のパーティー収入不記載事件についてやかましい中でしたから、その部分がクローズアップされて報道されています。
こういう時は、普段ならスポットライトが当たる部分が注目されず、後から振り返るとシレッといろいろなことが決まってしまうので注意が必要です。
演説の翌日(同31日)、自民党の財政健全化推進本部が新体制でスタートしました。「政治とカネ」で党内の派閥が相次いで解散を決めるなか、今まで積極財政論を説く中心だった安倍派(清和政策研究会)も解散を決めました。某新聞などは「財政規律を議論しやすい環境になる」などと、欣喜雀躍(きんきじゃくやく=大喜びで、小躍りすること)なのが分かるような書きぶりでした。
推進本部の新体制というのは、本部長だった額賀福志郎氏が衆院議長に就いたことで幹部が交代したからです。新たに本部長に就いたのは古川禎久元法相、本部長代行には小渕優子元経産相、幹事長には青木一彦参院議員という布陣となりました。
面白いことに、これらの方々は例の派閥解散のニュースのなかで、茂木派(平成研究会)を退会した方々ばかりです。
同31日の推進本部役員会では、今年のテーマや運営方針がすり合わされたそうです。報道では、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)や、物価高での財政再建の方針がテーマだそうです。いずれも6月ごろに決める「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、方向性を盛り込むとのことです。
PBに関しては、同22日に出された内閣府の試算では、黒字化目標の2025年度で1・1兆円の赤字とされました。「目標また未達!」と騒がれていますが、GDP(国内総生産)600兆円、税収70兆円を超えるわが国にあって、1・1兆の赤字は誤差の範囲といっても過言ではありません。
むしろ、コロナ対応で100兆を超える追加支出を行いながらも、インフレの恩恵もあり、増税なしでも急速に改善したのです。
拙欄でかつて書きましたが、この「骨太の方針」は予算の骨格を決めるので思いのほか重要です。そして、ここには「社会保険料以外の財政支出の増加は3年間で約1000億円以内」というタガがはめられていて、これが3年に一度しか変えられない厳しい軛(くびき)になっています。
増税なしでも、インフレと成長でここまでPBは改善してきたのに、推進本部の幹部が議論しているのは十年一日の如く、「歳出の抑制」やら「減税の縮減」やら、引き締めについてのみ。
岸田首相は施政方針演説で、「賃上げに加えて、6月からは所得税・住民税減税を行い、可処分所得を下支える(抜粋)」と明言したはずです。推進本部の引き締め議論はそれに逆行しているように見えます。
「このままでは、『政治とカネ』報道に紛れて、いつの間にか流れが決まってしまう」と、ある積極財政派議員が危惧していました。引き続き注意が必要です。
■飯田浩司(いいだ・こうじ) 1981年、神奈川県生まれ。2004年、横浜国立大学卒業後、ニッポン放送にアナウンサーとして入社。ニュース番組のパーソナリティーとして、政治・経済から国際問題まで取材する。現在、「飯田浩司のOK!Cozy up!」(月~金曜朝6―8時)を担当。趣味は野球観戦(阪神ファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書など。