「週刊文春1月4日・11日号」に第一報 「《呼び出された複数の女性が告発》ダウンタウン・松本人志(60)と恐怖の一夜「俺の子ども産めや!」 が掲載されてから、大きな反響と議論を呼んでいるダウンタウン・松本人志(60)をめぐる問題。
一連の報道、松本本人の言動、メディアや世間の反応について、各界の識者たちはどうみていたのか――。「週刊文春」で2週にわたって掲載された特集「松本問題『私はこう考える』」を公開する。
「ジャニー喜多川氏の被害者や伊藤詩織さんが声を上げたことで、日本社会は変わってきたが、メディアはまだ変わっていない」
そう嘆くのは、ジャーナリストの江川紹子氏(65)である。
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吉本興業への忖度を疑ってしまう、各テレビ局の対応
大手メディア、特にテレビ局の及び腰が、改めて浮き彫りになっています。
昨年末に第1報が報じられ、松本さんが文春を名誉毀損で提訴する段階に至るまで、テレビは当たり障りのない内容しか報道していません。弁護士に一般論を解説させ、松本さんと仲のいい芸人にこの問題を論じさせているだけ。性加害やハラスメントの本質に迫ろうとしていない。
「文春」記事を検証し、他に告発者はいないのか、同席者などの新たな証言者がいないのかを探してみてもいいはずです。独自の取材で、記事内の誤りがわかれば、それを報じればいい。
自民党の裏金問題や殺人事件などでは、記者を大量に投入し、新たな証言者を血眼になってみつけようとしている。しかし、なぜか松本さんの件では及び腰。吉本興業への忖度ではないかと疑ってしまうほどです。
性加害問題での反省が全く活かされていない
一方で、次なる告発者はスクープを報じたところに情報を持ち込むのが、世の常です。後発メディアが難しいのは理解できないこともない。また、人権にかかわる問題を扱う取材班を作るだけの人材が不足しているという、テレビ局の構造的問題もあると感じます。
でも、当事者に取材できなくても、他にできる報道はあるはずです。「文春」が第1報を出した後、松本さんは自身のXで疑惑を否定し、さらには、A子さんのLINEを流出させた「週刊女性PRIME」の記事内の画像を「とうとう出たね」とコメントを付けて拡散しました。
これは専門家が「セカンドレイプ」と指摘するようにA子さんの人権にかかわる大問題です。にもかかわらず、「松本さん側に新しい動きがありました」と報じる。単なる芸能ニュースのように扱い、面白おかしく騒いでいるだけです。
さらに唖然としたのは、読売テレビ・大橋善光社長の「松本さんと女性の対決を放送したい」という記者会見での発言です。テレビ局のトップにとって女性たちの告発はあくまで“ネタ”に過ぎないという本音が垣間見えました。
一連の動向を見ていると、ジャニー喜多川氏による性加害問題での反省が全く活かされていないと思います。
大手メディアは松本さんに記者会見を要請すべき
昨年3月に英BBCがドキュメンタリー番組で取り上げ、さらに被害者たちが実名・顔出しで会見してようやく、テレビ局は報じた。
その後、ジャニーズ事務所が解体される段階になって検証番組を作りましたが、あの「反省」は一体、何だったのでしょうか。
大手メディアは松本さんに記者会見を要請すべきです。現時点では「文春」が記事を一方的に報じ、松本さんは沈黙を保っている。文春と吉本興業が出す情報を、指をくわえて待っているだけで自らの責務を果たしていると言えるのか、考えて欲しい。
松本さんの問題でもメディアの存在意義が問われる
裁判になったから、とただ判決を待つのではなく、途中経過も報じていくべきです。「文春」編集部も検証の材料として、今後、訴状が届けば誌面で公開してはいかがでしょうか。
海外では、新聞社が先頭に立って性加害の問題を報じてきました。映画プロデューサーのワインスタイン氏のハラスメント問題では、「ニューヨーク・タイムズ」が先鞭をつけた。残念ながら日本では、新聞はオピニオンとして性加害の問題を報じても、具体的な事案に切り込みません。
メディアの役割とは何か。ジャニーズにつづき松本さんの問題でも、その存在意義が問われています。
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2月14日(水)12時配信の 「週刊文春 電子版」 および2月15日(木)発売の 「週刊文春」 では、お笑い界に革命をもたらした男が、なぜ女性たちから告発されるに至ったか――その道程を尼崎、心斎橋、六本木と総力取材で追った 「《実録・松本人志》なせ『笑いの天才』は『裸の王様』になったか」 を掲載している。
さらに、 「週刊文春 電子版」 では橋下徹氏、箕輪厚介氏、デーブ・スペクター氏ら計8人の論者による 「松本問題『私はこう考える』」 を配信している。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年2月8日号)