河野太郎の“諸刃の剣” 2人の太郎の総裁選バランスゲームを解剖する

2月9日、都内のイタリア料理店。酒を一滴も飲まない自民党の異端児がこの店で向き合っていたのは、麻生太郎副総裁だった。
その4日前、都心に雪が降り積もった夜には石破茂元幹事長とも会食をしている。いずれも、自民党の顔となる総裁を選ぶ上で避けては通れないキーマンだ。
それぞれで何が話し合われていたのだろうか。
側近は言う。
「会食を終えた河野はそれぞれの会で真逆の表情だったよ」
人気・実力は折り紙付きー しかし世論調査に“ある異変”
「鬼が笑うと思いますー」
秋に控える総裁選への出馬について記者に問われた河野氏は会見でこのように答えた。「来年のことを言うと鬼が笑う」とのことわざの一部を引用した形で、立候補するかは否定も肯定もしていない。
立候補を表明することになれば2009年、2021年に続いて3回目の挑戦となる。
自身の選挙は常に盤石で、党内でも「選挙に勝てる顔を」と求める中堅・若手議員たちの期待が集まる河野氏。世論調査での“次の総理にふさわしい人”との質問に対する回答では、常に上位に名前が挙がる。永田町では石破茂元幹事長、小泉進次郎元環境大臣らと並んで「小石河連合」としてその動向は度々注目をされてきた。
河野デジタル大臣(2021年9月、総裁選への出馬会見)「実行力、突破力というところは誰にも引けを取らないというふうに思っているー」
自身2回目となった総裁選への挑戦を表明した会見では自身の強みをこのように語っていた河野氏。
しかし、ここに来て河野氏の人気に異変が起き始めている。自身が所属する「麻生派」の会長である麻生副総裁の“失言”騒動で名指しされた上川陽子外務大臣の存在感が急上昇しているのだ。2月のJNN世論調査では、「ポスト岸田」にふさわしい人物として上川氏が初めて河野氏を抜いて3位に入った。
河野氏自身は現在、総裁選への出馬表明をしていないが、河野氏の周辺は「自分が総理になることではなく、総理になってからのことを時間かけて考えているんだと思う」と解説している。
「3度目の正直」の実現が注目される秋の総裁選。複数の関係者への取材で、河野氏の前に立つ2つのハードルが見えてきた。
“閣内入り”で持ち味の「忖度なし発言」も封じられ…
政府の重要政策でもあるマイナンバーカード普及。デジタル化による手続きの簡素化と利便性向上を狙う岸田政権の重要政策の1つだ。
岸田総理(2022年8月、内閣改造直後)「マイナンバーカード普及は待ったなしだ。河野大臣の突破力に期待している」
河野氏がデジタル大臣へ就任した2022年、岸田総理は周囲にこう解説している。コロナ禍ではワクチン接種推進担当大臣として国民へのワクチン接種の呼びかけや体制強化に務めるなど、これまでも政権支持率へ直結する重要政策を担い数々の重役をこなしてきた。ある中堅議員は「河野さんじゃなければ乗り越えられていなかった」と、その手腕を評価している。
持ち味の“実行力と突破力”は党内・閣内からも評価が高く、歯に衣着せぬ発言が人気を集める一方で、党内の問題に対しては表立った批判や踏み込んだ発言を避ける場面が多数ある。
河野デジタル大臣「党で議論されることだと思いますので詳細を私から申し上げるのは差し控えたいと思います」(2024年2月、記者会見)「中身については党で議論する話で、政府で議論するものではございません」(2024年2月、予算委員会答弁)
現在の政界の最大関心事ともいえる、自民党の派閥の政治資金をめぐる問題に対しては徹底して踏み込んだ発言を避けている河野氏。河野氏への期待感やキャラクターを考えれば、こうした問題にこそ是非とも切り込んでいって欲しい、という国民の期待は大きいはずだ。
この理由を河野氏の周辺は「党に関する発言は慎重にならざるを得ない。閣内に入るってこういうことなんだ」と解説している。奇しくも、河野氏の持ち味である「忖度ない姿勢」という武器が封じられてしまっているという。
「(今は大臣として)やるべきことをやるだけだ」
当の河野氏自身は焦る様子もなく、周囲に淡々とこう語っている。
総理へのもうひとつのハードル、キーマンは“もう1人の太郎”
河野氏を取り巻くハードルがもう1つある。
自身が所属する志公会(麻生派)の会長であり、自民党副総裁・麻生太郎氏の存在である。
麻生派は自民党の政治資金の問題を受け、党内の各派閥が解散を表明する中で、茂木幹事長率いる平成研(茂木派)と共に解散を表明しておらず、河野氏も麻生派からの脱会を表明していない。
前回の総裁選で河野陣営を務めた、あるベテラン議員はこう話す。
「候補になった時にどこまで捨て身になれるのかどうかが試される場面だ」
明言は避けたが、捨て身、という言葉は「麻生氏からの脱却」を指しているとみられる。
閣僚経験者も「河野太郎は最初に(派閥を)抜けておくべきだった。これでは二番煎じになってしまう。判断を誤った」と、麻生派に対する河野氏のスタンスを疑問視している。
そんな中、2月9日、突如河野氏は麻生氏と会食した。総裁選へ向けた所属する政策集団の会長への仁義切り、そして総裁選出馬への理解を求めに動いたともみられている。ただ、河野氏の周辺は「あれはまだ根回しの『根』の段階だ」としたうえで議論は「時期尚早」と強調した。そのうえで、会食を終えた河野氏の表情を「浮かない顔をしていた」と付け加えている。
「次の総裁選でも河野太郎に一本化とはならない」
麻生派関係者は派内の実情をこう明かす。
「いまだにベテラン議員は固い。今のままだと次の総裁選でも河野太郎に一本化とはならない」
実際、河野氏の評価はまだまだ厳しい。
麻生派幹部「弁が立つわけでもない。あれだけ飛び跳ねられるとどうすることもできない」
麻生派ベテラン議員「まだまだ危なっかしいよな。今後成長してもらわないと」
こうした意見が根強い中、河野氏は麻生派内の議員との会食を重ねている。河野氏の側近は「本気で支えたいという人が数人しかいない状況。人付き合いが苦手だが、コツコツ地盤を作っている」と険しい表情で話す。
麻生氏はどう動くか
では、麻生派会長の麻生氏はどう思っているのか。麻生氏の周辺がこう解説する。
「麻生会長は河野洋平さんの意思をしっかりと継いでいる。いずれは河野太郎。政治家は色々いるが、カリスマ性があることを麻生会長は非常に重要視している。国民が最初は反発することもやっていくことができる人じゃないとトップに立てない。ただ、次の総裁選で麻生派以外に担がれたら終わりだ」
とにかく麻生派を割らないことを1番に考える麻生氏。前回の総裁選のように、麻生派ではない「小石河連合」に担がれるようなことは二度と起こしてはならないと考えているようだ。
また、河野氏は、一般の人が自家用車を使って有料で客を運ぶ「ライドシェア」をめぐって、菅義偉前総理との連携も続けている。菅氏と麻生氏は折り合いが悪いことで有名だ。麻生派内からは「菅氏が河野総理を作ったみたいになることだけは避けなければ」と危惧する声も。
「傀儡政治であってはいけない」攻めと守りのバランスをいかにとるか
麻生副総裁(2024年1月、福岡県での講演)「新しいスターが。新しい人が、そこそこ育ちつつあるんだと思いますね。ぜひ女性、若い人、こういった人たちを、我々は育てねばならない」
上川外務大臣を持ち上げた講演で、こう強調した麻生氏。河野氏が「新しいスター」となる日を麻生氏は待ち望んでいるとみられる一方で、麻生氏の思いが、麻生派を抜ける決断のできない河野氏の“ジレンマ”の原因なのかもしれない。
河野陣営を務めたベテラン議員は、河野氏に対し「傀儡政治であってはいけない」と語気を強めて訴えている。
傀儡政治ー
つまり、政権にも派閥にも「操られない河野太郎」が求められていると強調する。
河野陣営を務めたベテラン議員「麻生さんの理解を求めたりしているうちは国民からの追い風は吹かないが、麻生派という強力な組織を飛び出すデメリットも非常に大きい」
「麻生氏からの脱却」という一政治家として大きな決断を下すことで、国民の理解を得ることができる可能性がある一方、麻生派だけではなく党内からの後押しを失う可能性を危惧している。
攻めと守りのバランスをいかに取るか。
河野氏は今後、難しい決断を迫られることになるだろう。
TBSテレビ 政治部 渡部将伍・中野光樹

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする