2023年の出生数は8年連続で過去最少を更新しました。政府は“異次元”での少子化対策の関連法案を提出する方針ですが、歯止めはかかるのか?産科医の宋美玄さん、データサイエンティストの宮田裕章さんと考えました。
出生数8年連続減少 赤字続く産院も…
静岡県焼津市の産科クリニック。こちらの家族には、第3子となる女の子が加わりました。
母親「頑張ったね、生まれてきてくれてありがとう」
日々、新たな命が生まれる一方で、院長は少子化の影響を肌で感じています。
前田産科婦人科医院 前田津紀夫院長「3年前から2年前にかけて(分娩の数が)150減りました」
クリニックの収入の多くは分娩費用。出産の数が減ったことで2023年の赤字額は、数千万円にのぼったといいます。
「安心して出産してほしい」との思いから、収入が減っても10年以上、分娩費用は値上げしていないという院長。他の経費を削減するのも簡単ではありません。
前田産科婦人科医院 前田津紀夫院長「(緊急の帝王切開をはじめ)分娩には必ずアクシデントがともなう。365日四六時中、看護師・助産師は余裕をもって待機をお願いする。お産が減っても、人件費を減らすことができない」
8年連続で過去最少を更新し続けている出生数。分娩を扱うクリニックも2023年までの10年間で390ほど減ったといいます。
産む場所が減ることで、出産の安心が損なわれるという悪循環。
少子化対策が待ったなしの状況に、政府は児童手当の拡充や、妊娠出産時の10万円給付などを盛り込んだ関連法案を今国会で成立させる方針ですが…
立憲民主党 早稲田夕季衆院議員「増税隠しですよ、事実上の子育て増税です」
「実質的な負担は生じない」としつつも、財源として医療保険料に月平均500円弱を上乗せして徴収するなどとする政府の説明に野党から批判が噴出。
26日、加藤大臣は…
加藤鮎子こども政策担当大臣「子ども1人あたりの給付拡充の額を算出すると平均約146万円となる」
子ども1人あたりの給付額が、0歳から18歳までの間で146万円プラス、年間約7万円となるとメリットを強調しました。
ただ、この数字は高校生の扶養控除縮小の影響を反映しておらず、政府の説明には疑問が残ったままです。
2人目を産めない「教育費が昔より高い」
藤森祥平キャスター:2023年の出生数が過去最低になりました。このままいくと、2070年には約8700万人の人口になり、50年間で人口が3分の2になってしまうと見られています。
既に出生数が減っていますから、産婦人科医の皆さんの働き方、経営も含めてかなり厳しい状況ですね。
産婦人科医宋美玄さん:都市部より地方を中心にどんどん減っていて、この6年ぐらいで3分の2ぐらいになっているという声を聞いています。そうすると、どうしても採算が取れなくなるので分娩施設を閉めるところも今後出てきますし、それも相当計画的に集約化しないと空白地帯が出てきて、それがまた少子化に拍車をかけるのではと危惧します。
データサイエンティスト 慶応大学医学部宮田裕章教授:医療体制もそうですし、国全体の仕組みが成り立たなくなっていくんですよね。出生率は下がってきている、とはいえスウェーデンやフランスはうまくいってるんです。共通項は何かというと、今まで多世代家族やコミュニティというものに支えられてきたものを、社会の仕組みで支えるということなんです。
個人で産むけど、みんなで育てる。産めば何とかなる。これが出生率の低い国では難しいんですよね。経済的にも国も頼れないということで、どんどん低下していく。その状況に今、日本はある。これを変えなくてはいけない。
もう1人欲しい?子育て世帯は?
子どもが減っている現状を皆さんはどう感じているのでしょうか。子育て世帯にお話を聞きました。
ーー子ども“もう1人”とは?
2児の母(6歳・1歳)会社員30代「今のところ無理かな。体力的にも経済的にも難しいかな」「小学校中学校に行ったら塾も欠かせない。塾に行かなくても良い大学・高校に行ける環境が作れればありがたい」
2児の母(3歳・0歳)会社員30代「子どもが体調崩して早退ってなると、周りに申し訳ない面も強いので、周りからの理解が当たり前の働ける環境が整ったら良い。働き辛くて正社員辞めてパートに変わった人もいる」
1児の父(8か月)営業・会社員30代「(育児が)物理的に難しいところもある。火曜日水曜日は休みなんですけど、営業(仕事)の電話がかかって来る」
1児の母(1歳2か月)会社員30代「電車に乗ってもやっぱり“静かにさせなきゃ”みたいな空気感。子どもを育てやすい雰囲気に国がなれば良いなって」
小川キャスター:体力面、経済面、そして働く環境の改善、さらには空気感。あらゆる面での課題が多すぎて、今を乗り切るのに精いっぱいというのが伝わってきますよね。
藤森キャスター:政府が発表した未婚の男女に、理想の子どもの数を聞いた調査では、初めて男女ともに2人以下となりました。(男性1.82人、女性1.79人)
これは、教育費が昔より高くなっていたりして、経済的負担を考えると、1人しか産めそうにない、という声があります。
現行の子育て支援は、出産一時金や中学生まで支給される児童手当で計約250万円。
そうした中、政府は新たな子育て支援として、0歳~18歳までの子ども1人19年間で平均約146万円、年割にすると大体7~8万円という数字を26日に出してきたんです。でも、まだピンとこないというか、具体的な説明も乏しいし…
産婦人科医宋美玄さん:子育てしてる側からすると、給付はもちろんプラスにはなるし、ありがたい子育て支援ではありますが、それでもう1人産むか?というと、よほど多額の給付でない限り、過去の例を見ても、給付というのは今いる子どもにより教育課金なりをするということで、目に見えて数字として増えるぐらいの給付では全然程遠いと思うんですね。
それよりは、例えば学校の先生もいつまでたっても待遇も改善されなかったりして、国が教育にもっとちゃんとお金をかけて、この国で産んでも、公立にずっと通わせていたら立派な大人になるというような安心感だったり、こういった目先の年間数万円の給付じゃなくて、年収が何百万と上がるような雇用政策とか、そういうレベルじゃないと、子どもが増えるというところまではいかないと思いますね。
小川キャスター:これなら安心して産める、これなら安心して子育てを続けていけるという、そうしたメッセージがいまいち伝わってこないですね。
データサイエンティスト 慶応大学医学部宮田裕章教授:一時的な給付は景気刺激策にはなるんですけども、やはり少子化対策ということ考えると、教育に対する負担が減るとか、あるいは子どもを産んだときにいろいろなサポートを受けられるという継続的な支援として成立してるかどうかなんですよね。
今回の政策の中で、広く薄くがどうしても目立ってしまっているので、同じ財源を充てるにしても、例えばデータを使えばより苦しい人に寄り添うことができるんです。
例えば、日本では離婚してしまった場合のシングルペアレンツの貧困率が、OECD(経済協力開発機構)34か国で今、最低なんですよね。半数以上が貧困になってしまう。それを改善しないといけない。産めば何とかなるではなく、いまは逆の状況。安心感や未来への期待をいろいろな側面から作れるかということが重要だと思います。
子どもは欲しいですか?若者世代は?
藤森キャスター:政府は少子化の要因として未婚化・晩婚化もあげていますが、これから親になる若い世代にも聞いてました。
20代大学生「お母さんもお父さんも働く時代なので、家事とか育児とかどういうバランスでやっていくか不安」
ーー“異次元の少子化対策”ご存知ですか?
10代大学生「知らないです」
ーー聞いたことは?
10代大学生「ないです」
ーーどういうものだと?
10代大学生「異次元の…?異次元の少子化って何?」
20代大学生「幼稚園でアルバイトして子どもと接していて、育てることに楽しいと感じるし、3人くらいほしいので、現実的に考えるとお金は必要になる、そこは不安」
20代大学生「自分の生活がすり減ってまで育てる気にはならない。お金も奨学金返さなあかんから、お金の余裕がない。返済という責任感がなかったら、もっと家族を想像しやすい」
小川キャスター:今の子育て世帯をみて、不安になってる方も多いんじゃないかなと思いますね。
藤森キャスター:未婚化・晩婚化対策として、政府や自治体は出会いを増やすきっかけとして、「街コン」などに補助金を支給するなどしてきましたが、最近では岡山県が同窓会に補助金1000万円をだすということですが…
産婦人科医宋美玄さん:男女に出会いが起これば結婚して子どもを産むだろうって思ってるということだと思うんですけど、日本の人口学的な大きな特徴って、第3次ベビーブームがなかったんです。要は、ロスジェネ世代が第3次ベビーブームを起こせなかったんですね。
ここに大きな鍵があると思うんですけれども、今のロスジェネ世代は就職氷河期に重なって、非正規だったりとか、収入が上がらなかったりして、そういった人たちは特に未婚率が高いんですね。
なので、男女がいて、出会えば結婚するんじゃなくて、雇用とか収入とかがそこまでに至ってない。なので、「そこじゃない感」がすごい大きいんですよね。
小川キャスター:そこじゃない、といえば、宋さんもSNSでおっしゃってましたけれども、富山県の高岡市では少子化対策として、排卵日のわかる女性の健康アプリを無料で使えるようにするという事業を全国で初めてやっている、とアピールしてましたけれども、これも「そこじゃない感」。
産婦人科医宋美玄さん:そもそも元々無料のアプリがいっぱいあるんですよね。排卵日を知りたい人は課金してでも使ってたわけで。少子化の原因は、排卵日がいつかわからないから、みんなが子どもを作れないんじゃなくて、原因を調べて、対策して、数値目標を立てて修正していかないといけない。どれも思いつきに見えてしまって、逆に不安です。
子どもを持ちたい人が選択肢を持てるような仕組みを
小川キャスター:政治には、子育てに関わる方だけでなく、国民全体で理解し合って少子化対策というのを推し進めていくための政府の説明というのも必要になってきますよね。
宮田教授:やはりフラットに子どもを持ちたいと思える人たちが、持てる選択肢を実際に手にできるかどうか。こういう仕組みを作っていかなくちゃいけない。
今回の議論ですごく気になるのが、増税か否かみたいなところですね。「実質増税じゃない」というところに議論に集中しすぎていて、実際公的なお金を使うのであれば、戦略目標がしっかりあって、それが効果を上げたのかということを評価しながら、見ていかなくちゃいけないんですよね。
どの対策も、効果があるもの・ないものがあるので、何を目標にしながら、その途中経過をしっかり公開していくことが必要だと思います。
“異次元の少子化対策”効果は?「みんなの声」は
NEWSDIGアプリでは『少子化対策』などについて「みんなの声」を募集しました。
Q.“異次元の少子化対策”で少子化を止められる?「対策次第で止められる」…12.7%「対策は必要だが止められない」…78.9%「対策は必要ない」…6.8%「その他・わからない」…1.7%
※2月27日午後11時23分時点※統計学的手法に基づく世論調査ではありません※動画内で紹介したアンケートは28日午前8時で終了します。