20代の中国籍の女が昨年12月、入管難民法違反の疑いで警視庁国際犯罪対策課に逮捕された。女は11月12日ごろ、自宅でベトナムやインドネシアなどの国籍の男女の在留カード13枚とマイナンバーカード9枚を偽造したとされている。
女は約半年間にわたり、中国国内にいる共犯者の指示に従い、日本の各種身分証の偽造品、約1万枚を作成し、指定された住所に郵送することで、日当約1万2000~1万6000円程度を受け取っていたとみられている。さらに、家宅捜索ではマイナンバーカードの券面を模したプラスチックの台紙が約750枚押収されており、2016年の交付開始以来、同カードの偽造が疑われる事件としては過去最大規模である可能性もある。
公的身分証としての役割が与えられ、目下、利活用の拡大が進められているマイナンバーカードの偽造品が大量生産され、流通しているとすれば大問題だ。しかし、河野太郎デジタル相は、容疑者の女が作成していた偽造マイナンバーカードは「単純なもの」としたうえで、「さまざまな偽造・変造対策が行われている」と安全宣言を行った。
紆余曲折を経て、筆者は、この事件で押収されたものと同型の台紙が使われているとみられる偽造マイナンバーカードを入手した。その経緯については他媒体ですでに記事にしているので割愛するが、マイナンバーカードの偽造団に接触し、直接受け取った。そのカードの裏面に施されているICチップを模した金属片の模様は、昨年12月の事件での押収品のものと特徴が一致する。
河野デジタル相が言った通り、偽造品としての品質はそれほど高くはなさそうだった。
筆者はこれまでに、複数の偽造在留カードを手にしたが、最新のものともなれば、本物と並べても見分けがつかなかった。ところがこの偽造マイナンバーカードは、手触りから色味、台紙の硬さなど、すぐに本物と見分けがつく点が複数あった。
とはいえ、逮捕された女は750枚もの偽造マイナンバーカードの台紙を持っていたのは、それだけの需要があるからだ。そして需要があるのは、偽造品としての使い道があるということだ。
次回は、この粗悪な偽造マイナンバーカードが、どのように利用されているかについて紹介する。 =つづく
■外国人材の受け入れ拡大や訪日旅行ブームにより、急速に多国籍化が進むニッポン。外国人犯罪が増加する一方で、排外的な言説の横行など種々の摩擦も起きている。「多文化共生」は聞くも白々しく、欧米の移民国家のように「人種のるつぼ」の形成に向かう様子もない。むしろ日本の中に出自ごとの「異邦」が無数に形成され、それぞれがその境界の中で生きているイメージだ。しかしそれは日本人も同じこと。境界の向こうでは、われわれもまた異邦人(エイリアンズ)なのだ。
■奥窪優木(おくくぼ・ゆうき) 1980年、愛媛県出身。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国で現地取材。2008年に帰国後、「国家の政策や国際的事象が、末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに取材活動。16年「週刊SPA!」で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論され、健康保険法等の改正につながった。著書に「ルポ 新型コロナ詐欺」(扶桑社)など。