3月6日。国会内の会議室に17人の自民党議員が集まり、『「日本のチカラ」研究会』の4回目の勉強会がマスコミ非公開で行われた。
この研究会は、高市経済安保担当大臣が去年11月に立ち上げた勉強会で、会員は50人ほど。現在の自民党最大派閥である麻生派の55人に迫る規模だ。
勉強会に参加した議員の1人はこう高市氏を評した。
「今の体たらくな自民党の中だからこそ、彼女みたいな人は必要だと思う。保守の希望になってるのは間違いない」
派閥の論理ではない「政策集団」を~”会員50人”が持つ意味
勉強会の立ち上げにあたって、自民党内では「総裁選に向けた基盤固め狙いだろう」などとささやかれた。
実際、勉強会に参加し、高市氏を支える議員は、「会員を増やそうと焦ってはいないが、50人の会員をグリップすることが大事」と語る。
自民党の総裁選に出馬するためには推薦人を20人確保する必要があるが、50人もの会員がいる勉強会をやり続けていれば、推薦人確保とともに総裁選でも十分に戦えるのではないか、と読んでいるのだ。
しかし、当の高市氏本人は「総裁選を見据えた動きではない」と主張する。実際、勉強会を立ち上げて以降、裏金事件によって各派閥が解散する方針を打ち出し、無派閥議員は7割に増えているが、勉強会の会員を増やそうとする動きは見られない。では、この勉強会が意味するところは何なのか。高市氏の周辺は次のように背景を語る。
「派閥の論理ではなく、政策や価値観が一致した人が応援してくれることが一番」
議員が集まるのは、あくまで高市氏と共に政策を学ぶため。カネや人事が密接に絡む旧来の「派閥」と異なり、勉強会を重ねて、純粋に高市氏の政治姿勢に共感した人が集まれば、結果として本来自民党が目指した「政策集団」が作れるというのだ。
「保守派のスター」高市早苗氏と安倍元総理
3月2、3日に実施したJNNの世論調査で「次の総理にふさわしい人」を聞いたところ、5.2%の支持を集めた高市氏。最近“急浮上”した上川外務大臣とは対照的に、常に一定の支持を集めている(2月実施の世論調査では6.0%)。その支えとなっているとみられるのが「強固な保守層」だ。
閣僚であっても靖国神社を毎年欠かさず参拝するなど、高市氏といえば「保守系」のイメージが強い。実際、高市氏のコラムにはルーツの一端が垣間見える。
高市早苗衆院議員(2012年9月3日コラムより)『私が幼い頃に両親が繰り返し教えてくれたのは、「教育勅語」でした。小学校に入る前から全文を暗記していたのだという両親が、楽しそうに声を合わせて唱える姿が好きでした』
そんな高市氏を語るうえで、切り離せない人物が安倍晋三元総理だ。高市氏の周辺は「安倍さんと同じ考えを持っていて、それを共有する中で意気投合した。安倍さんがこういう思想だから高市氏も寄せていったわけではない」と話すが、2011年の総裁選で高市氏は、当時所属していた町村派を退会してまで安倍氏を応援した。そして、第二次安倍政権発足後は政調会長や総務大臣などを歴任し政権を支えた。
2021年9月、当時の菅総理が総裁選への不出馬を表明したことを受け、高市氏は初めて総理の座にチャレンジした。
高市早苗衆院議員(2021年9月、総裁選の所信発表演説会)「私は、国の究極の使命は、『国民の皆様の生命と財産』を守り抜くこと、『領土・領海・領空・資源』を守り抜くこと、『国家の主権と名誉』を守り抜くことだと考えております」
このときの総裁選で高市氏の支持に回ったのが安倍氏だった。高市氏について「国民の命と生活を守り、経済を活性化するための具体的な政策を示し、日本の主権は守り抜くとの確固たる決意と、国家観を力強く示した」と自身のSNSで評価し、保守層に訴えかけた。
当初は「泡沫候補」と言われていた高市氏だったが、安倍氏の支持を受けて“台風の目”となった。最終的には岸田総理に敗北したものの、総裁選の結果を大きく左右すると言われる国会議員票では岸田総理に次いで2番目の票を集めたのだった。
岸田内閣の一員としてこだわる「セキュリティ・クリアランス」
現在は閣僚として岸田総理を支える立場の高市氏。
高市氏の担当分野は宇宙政策やクールジャパン、AIなど非常に多岐に渡るが、その中でも1年半もの歳月をかけて特に心血を注いで取り組んでいる法案が「セキュリティ・クリアランス」(以下SC)である。
「SC制度」とは、経済安全保障分野における機密情報の取り扱いを政府が資格を与えた者だけに認める制度のことで、高市氏は「日本がG7で唯一、経済安保の機密情報に関する法案が整備されていない」として、「外国政府の入札に参加できないなど、ビジネスチャンスを失っている」と主張している。
成立すれば、日本の安全保障に関わる経済や技術の保全が強化されるとともに、民間企業がより国際的なビジネスを行えることができるようになるなど、日本の国益と深くかかわる法案だけに、2月8日に開かれた、保守系議員が集まる「保守団結の会」では、参加者から「やっぱり高市先生でなければ今回の法案はここまでできなかった」という声が上がった。
「天の時を待つ心境」総裁選に向け勝負の半年
2023年10月、民放のBS番組で9月の自民党総裁選について問われた高市氏は、次のように答えて永田町をざわつかせた。
「まずはセキュリティ・クリアランスを仕上げます。そしてまた(総裁選を)戦わせていただきます」
また、1月には、大阪・関西万博を延期するよう岸田総理に進言したことを自ら明らかにするなど、閣僚の中では自由な発言が目立つ。こうした振る舞いには党内から厳しい目も注がれているが、保守層を中心とした人気は根強いものがあるのも確かだ。
高市氏が顧問を務め、自身の国家観をともにする「保守団結の会」の議員の一人は、「(保守団結の会が)総裁選のための会ではない」と前置きした上で、「結果として思想信条が近い人を応援するのは自然なこと」として、総裁選で高市氏を支持することを示唆している。
また、前回の総裁選で高市氏の推薦人となった議員は、安倍元総理の想いを推し量る。
前回の総裁選の高市氏推薦人「安倍さんが唯一できなかったことを挙げるなら、高市さんをちゃんと後継者として送り出してあげられなかったってことだ」「自民党の選択肢として保守がなくなるのはあり得ないから。それだけ保守層ってのは重要なんだよ。」
安倍氏の支持はもう得られないものの、その遺志を継ぎ、変わらぬ価値観を強調することで保守層に訴えかけていくものとみられる。
年明けのラジオ番組で高市氏は総裁選について問われた際に、三国志の一節を引用して「『身を屈して、分を守り、天の時を待つ』という心境」と述べた。「野心を心の内に秘めて時が来るのを待つ」という意味だ。
「セキュリティ・クリアランス」などの成果を積み上げて、来る9月の総裁選ではリベンジとなるか、この半年が勝負となる。
(TBSテレビ政治部 大室裕哉)