全国の暴力団勢力が令和5年末に2万400人と、平成に入り最多だった同3年(9万1千人)の4分の1以下まで縮小したことが警察庁の調べで判明した。日本最大の暴力団、山口組は分裂後の対立で揺れ続け、全国唯一の特定危険指定暴力団、工藤会はトップが殺人罪などに問われて公判中。社会における暴力団包囲網が狭まる中、生き残りをかけてもがく〝ヤクザ〟の実態が浮かび上がった。
暴対法と暴排条例
警察庁などによると、暴力団勢力のピークは昭和38年の18万4千人。抗争事件などが相次ぎ、警察当局は全国警察が一体となった「頂上作戦」を展開、取締りを強化した。暴力団員の絶対数は減ったものの、特定の大規模暴力団の勢力は伸長。再び対立抗争が激化し、暴力団排除の機運が高まった。
これを受け平成4年に暴力団対策法(暴対法)が施行。その後、何度も改正が繰り返され、組織的暴力を背景とした要求行為や資金獲得活動を取り締まる態勢が整えられた。
加えて、民間側に暴力団の関係を断つよう求める暴力団排除(暴排)条例が平成22~23年に全都道府県で整備された。こうした取り組みも影響し、暴力団勢力は18年から19年連続で減少している。
2種類の詐欺
暴力団の衰退に比例するように、警察当局による暴力団員の摘発者数も減っている。令和5年は9610人と、前年から293人減少。罪名別では覚醒剤取締法違反(1912人)が最も多く、詐欺(1332人)が続いた。
特殊詐欺の被害額は2年連続で増加。詐取され洗浄(ロンダリング)された〝アングラマネー〟に既存の暴力団や匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が群がっており、昨年11月までに指定暴力団稲川会系組幹部がリーダーだった特殊詐欺グループの全容を、京都府警が解明。計18人を詐欺容疑で摘発している。
警察庁幹部は「特殊詐欺に活路を見出す一方、暴排の網をかいくぐる『2項詐欺』で逮捕される例も多い」と、捜査現場の実情を明かす。
2項詐欺とは、刑法246条の詐欺罪のうち、人を欺いて「金品(財物)」得た者と定めた同条1項でなく、人を欺いて「財産上の不法の利益」を得た者、他人に得をさせた者に成立するとした同条2項に該当するものだ。
暴力団員であるという素性を隠してゴルフ場を利用したり、マンションを借りたり、口座を開設したりする行為がこれに当たる。近年、警察当局がこの2項詐欺を適用し暴力団員を逮捕するケースが増加。違法性の軽重によって起訴されない例も少なくないが、組織に打撃を与えているといえる。
抗争は5件
日本最大の暴力団組織として知られる山口組は平成27年以降、分裂と対立を繰り返しており、分裂し生まれた神戸山口組や池田組との抗争が続く。
元々の山口組も含め3団体が特定抗争指定暴力団に指定されており、昨年も4月に岡山市内の池田組系組長宅敷地内で組長を刃物で刺したとして山口組関係者が殺人未遂容疑で逮捕されるなど、計5件の事件が発生した。
ただ、警察当局の取り締まり強化や厳罰化の影響もあって、前年比では13件減少した。警察幹部は「息を潜めている印象」と指摘する。
FX取引で逮捕も
4つの市民襲撃事件で組織トップの総裁が殺人や組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)の罪に問われ、令和3年に1審福岡地裁で死刑判決が下された工藤会。控訴審で福岡高裁は今年3月、殺人については無罪として1審判決を破棄、無期懲役を言い渡した。
警察OBは「判決内容はともあれ、恐怖政治を敷いて頂点に君臨していた絶対的なトップが社会不在を続けることは組織の弱体化に直結する」とした上で「シンボルだった旧本部事務所も解体。一般人に牙をむく凶暴さで、福岡県警の手を焼いてきた工藤会も退潮傾向は明らか」と分析する。
活動が制約される中、工藤会も新たな資金源の獲得を模索しているようだ。国に無登録のまま長崎県佐世保市の男性と投資一任契約を結び、外国為替証拠金取引(FX取引)で資金運用したとして、昨年11月に幹部が金融商品取引法違反容疑で逮捕されている。
捜査関係者は「任(にんきょう)を掲げながら、その道を大きく外れ、傍若無人に振舞ってきたツケ。FXなど悪あがきに過ぎない」と一刀両断した。