能登半島地震で大きな被害が出た石川県七尾市の和倉温泉で、旅館「花ごよみ」が3日、営業を再開する。同温泉では地震後、すべての旅館・ホテルが休業しており、約4か月ぶりに温泉街に小さな明かりがともる。
元日、旅館では年末年始を過ごす宿泊客で全10室が埋まっていた。地震発生時の午後4時過ぎ、半数ほどの部屋にいた約10人を従業員が高台に避難させた。けが人などはなかったが、ボイラー小屋が大きく傾き、浴室の湯口から出ていたお湯も止まっていた。自慢の源泉掛け流しだっただけに、北村金次社長(67)は「絶望的な気持ちだった」と振り返る。
和倉温泉旅館協同組合によると、地震後、周辺の旅館は建物にひびが入り、断水が続くなどして加盟21旅館すべてが休業した。今も、大半の旅館は営業再開のめどが立っていない。
花ごよみは、源泉と宿をつなぐ約270メートルの配管が損傷した。漏水箇所を手探りで見つけなければならなかったが、全ての配管を取り換える資金はない。「廃業」の2文字が頭をよぎったが、復旧支援の建設業者や電気工事業者を受け入れながら、配管の修復も進めた。
4月20日頃、6か所目の漏水箇所を直した時だった。玄関先にある竹筒から、わずかに湯が出ているのに気づいた。「配管がつながったとわかり、一気に希望がわいた」という。配管やボイラーの修理を急ピッチで進め、予約を受け付けると、工事関係者や被災者の親族を中心に、5月3、4日は満室になった。
従業員たちは、多くの客に温泉を再び楽しんでもらう日を目指して準備を進めている。北村社長は「地震で温泉街全体が被害を受け、完全に復旧していないので、しばらく観光客は多く見込めないかもしれないが、『能登のために』と来てくれる人たちの疲れを少しでも癒やせたら」と話している。