〈〈那須2遺体〉「4月末には片づける」“番頭”の関根容疑者は経営をめぐってクーデター画策か? 事件直後には得意の英語で部下に指示も。司令塔の逮捕に従業員は「これからどうすれば…」〉から続く
東京・上野の繁華街で焼肉店など飲食店を多店舗展開していた「サンエイ商事」の宝島龍太郎さん(55)と妻の幸子さん(56)の他殺体が火をつけられて栃木県内に遺棄されていた事件は、夫妻の長女の内縁の夫で同社の「番頭」的存在の関根誠端容疑者(32)=死体損壊容疑で逮捕=が一連の計画を立案、主導した疑いが濃厚だ。北朝鮮との国境近くの中国から来日して焼肉店を開業した宝島さんが、苦労の末に「宝島ロード」と称されるほどの集中展開を遂げた背景には、補佐役としての関根容疑者が大きな役割をはたしていたという。ビジネスでは蜜月だったはずの2人に何があったのか。
〈連続写真〉宝島さんと街頭で話し込む関根容疑者、サングラスをかけ“ライバル”店“にのりこむ場面も
「日本人じゃないから銀行は金を貸してくれない」とボヤいていた
「サンエイ商事」と長年親交があり、2人の関係を目のあたりにしてきた男性が、ため息まじりに詳細な証言をしてくれた。
「宝島社長が1号店の焼肉店をやり始めたときからの付き合いだから、もう20年以上になるんかな。それこそ娘さん(関根容疑者の内縁の妻)もまだ小さくて、1人で家で留守番するのが嫌だっていうんで小学校の頃はいつも上野の店まで来て、ちょこんと座っててな。俺も縄跳び一緒にやって遊んだりしたわ。
あの子が今、あんな大きくなって宝島社長の店もあんだけ拡大していってな。報道では14店舗って出てるけど、あれ18店舗あるから。ものすげえよな。2店舗、3店舗って拡大してからの勢いがほんとすごかった。それがこんな事件になっちまって驚くしかねえよ」
男性は関根容疑者のこともよく知っていただけに、4月16日に事件が発覚した当初は関根容疑者のことも心配になったという。「ニュースが飛び込んできて、関根くんが心配だったから『体調は大丈夫か?』ってメールしたんだよ。でも返答はなかった。さっきも言ったけど、驚きしかないよ。バカなことしやがって。関根くんにはそんなふうに思う。俺から見たら宝島社長たちと関根くんは経営者と頼りになる部下って印象しかなかったのに。
宝島社長はやり手ではあるんだけど、苦労はたくさんしていて、俺に『自分は日本人じゃないから銀行は金を貸してくれない』なんてぼやいてたときもあった。やっぱり日本人じゃないって部分で苦労してたんだけど、そこをうまく補っていたのが関根くんだったんだ」
関根くんは社長を「パパ」幸子さんを「ママ」って呼んでいた
ニューカマーの宝島さんにとって、「日本人じゃない」という理由でうまくいかないことは銀行相手にとどまらず、日常的にさまざまな場面であったという。数年前に現れた関根容疑者は、そうした場面で優秀な補佐役として機能したという。
「宝島社長夫妻も関根くんを頼りきっていたんだぞ。関根くんは若い頃はアメリカに留学してたとかで英語も堪能だったし、何より優しかったからな。宝島社長たちからは『マネージャー』って呼ばれていて、関根くんは社長を『パパ』幸子さんを『ママ』って呼んでいたよ。
関根くんは各店舗の業務を見て回ったり、新しい店舗展開で交渉役をやったり、いろいろな業務に携わっていた。関根くんが新しくオープンする寿司店の板前を自ら連れてきたりもしていた。もちろん実質的な経営判断は社長夫妻がしてたんだろうけど、かなり頼られてたな。もちろんケンカしてるとこなんて見たことないよ」
経営者として強引ともみられるような手法も、宝島さんと関根容疑者の2人は共通していたという。「宝島社長もグッといくときはいって引かない、ほんと『やる男』って感じでな。あるとき、ライバル店に商品を卸すのをやめろと宝島社長に言われたんだ。うちとしてはどうしたもんかって迷ったけど、『A店と取引をやめてもその分の売り上げをすぐに超えてやる。だからやめろ』ってな。なかなかそんなこと言えることではないよな。そういう意味では関根くんも似たようなところはあった。関根くんは仕事にほんとに真面目で、とことんやるタイプだった」
そんな関根容疑者が最近、仕事に関する愚痴をこぼすようになったという。「4月に入ってからだったと思うけど、お好み焼き・もんじゃ店を新規開店したときに、珍しく関根くんが愚痴ってたんだ。初めて聞いたよ。ふだんからあっけらかんとしてるからびっくりしたけど、俺も深く聞かなかったんだよな。オープン祝いで店に顔出したら関根くんが手招きして『俺、ゴールデンウィーク終わったらこの会社辞めるんで。やってらんねえ』ってね。でも言い方がそれほど深刻そうじゃなかったから『関根くんが辞めたらこの会社どうなるんだよ?』と軽く話を流してしまった」
「何しゃべってんの、私の悪口?」
このときに男性が発した言葉は、関根容疑者が「サンエイ商事」の屋台骨を支えているという思いからの本音だったが、それを聞いた関根容疑者はにわかに顔色を変え、話をさえぎるような仕草を見せたという。
「おかしいなと思って振り返ると幸子さんがいてね。『何しゃべってんの、私の悪口?』みたいなこと言われて、関根くんは誤魔化すように話を終わりにしていた。そもそもこのお好み焼き店に関しては関根くんの発案っていう話で、オープンした矢先だったし、俺も深くは考えていなかったけど、今思えば、この時点で事件の計画があった可能性もあったわけだろ……なんだかなあ。宝島社長と幸子さんを『パパ』、『ママ』って呼ぶくらいだから娘さんと付き合ってるんだろうとは思ってたけどな。
一回幸子さんに2人の関係を確かめたことはあって、そのときは『付き合ってない』ってことだったけど、仕事に支障がないようにそう言ってたんかもな。ちょっと前までは娘さんも店に来ていて、俺にも『関根ならあっちの店舗にいるよ』とか言ってたんだけどな。最近は子供の保育園とかで忙しくなって店にも来なくなっていたよ。ほんとなぁ、関根くんコワモテに見えるけどさ、昔はワルだったとかそんなんじゃないと思うよ。タトゥーとか入ってたけどサングラスとると可愛い目しててさ、ほんと優しいやつだったのにな……」
やり手の経営者夫妻と優秀な番頭。♯22、♯23でも報じたが関根容疑者と宝島夫妻には事業の経営を巡って“対立”が深刻化し、事件直前に関根容疑者は自身の“派閥”の従業員に対し「全てを片付ける」とクーデターを匂わせるメッセージをSNSで送っている。「身内」の中で、残忍な犯行に及ぶほどに収拾不可能となった決定打はなんだったのか。謎めく事件の扉はまだ開いたばかりだ。
取材・文/集英社オンライン編集部