岸田政権はまだまだ続く可能性が高い…政治的には詰んでいる岸田首相が「続投に自信満々」となっているワケ

岸田内閣は万策尽きた感がある。派閥解消を打ち上げても、裏金議員たちを処分しても、国賓待遇で訪米しても、支持率は2割台に低迷したままだ。
ついには4月28日投開票の衆院3補選(東京15区、島根1区、長崎3区)で全敗し、自公与党内では「岸田内閣では解散総選挙は戦えない」が共通認識となった。ここまで国民に嫌われてしまった内閣が息を吹き返すことはなかなか想定しにくい。
6月解散・7月総選挙で自公過半数を維持し、その勢いで9月の自民党総裁選を乗り切るという岸田文雄首相の総裁再選シナリオは、今や風前の灯である。
衆院議員の任期は来年10月まで。9月の総裁選時点で残すところ1年だ。来年7月には参院選もある。日本政界はいよいよ「選挙の季節」に突入する。
9月の総裁選は当然のことながら「選挙の顔」を選ぶ戦いとなる。自民党がこれほど国民に不人気な岸田首相を再び党首に担ぎ出す理由はどこにもない。
6月に会期末を迎える今国会は裏金問題一色だ。これから政治資金規正法の改正をめぐる与野党協議という難題に直面する。自民党への大逆風は当面やみそうにない。
だからただちには「岸田おろし」を仕掛けず、世論の批判を一身に浴びる役回りを岸田首相に押し付ける。9月の総裁選で「新しい首相」を選んでイメージを刷新し、新内閣誕生のご祝儀相場に乗って10月に解散総選挙を挙行する――。
自民党内で首相を差し替える「疑似政権交代」で解散総選挙を乗り切るのは、自民党のお家芸である。今回の裏金問題もそれで凌ぎ切るしかないというのが、今の自民党内の相場観だ。
ところが、岸田首相本人はまったく別の政局展望を描いている。
田中角栄に続いて橋本龍太郎の首相在任期間も抜いて戦後8位となった岸田内閣の余命はあと4カ月。自民党内の誰もがそう確信しているのに、張本人の岸田首相はなぜか意気軒昂だ。大型連休もフランス、ブラジル、パラグアイを3泊6日で駆け巡る世界一周の弾丸ツアーを精力的にこなし、補選全敗もお構いなしの気配なのだ。
6月23日の国会会期末の直前に衆院を解散すれば、総選挙の投開票日は7月7日の東京都知事選と同時になる公算が高い。ところが岸田首相は7月9日から米国ワシントンで開催されるNATO首脳会議に参加する方針を迷いなく決めた。
もはや6月解散をあきらめ、大好きな外遊で頭がいっぱいのように見える。
それでも9月の総裁選で再選を果たす道はあきらめていない。単に強がっているのかというと、どうやらそうでもなさそうだ。周辺には「総裁選前に解散しなくても総裁再選は可能」との見方を示しているという。
岸田首相の自信の根拠はどこにあるのか。永田町を探し歩いてもその答えは見つからない。国内政治的にはどう考えても「岸田首相は詰んでいる」のだ。
ナゾを解く鍵は、4月の国賓待遇の訪米にある。岸田首相は大統領専用車ビーストに同乗してバイデン大統領と満面笑みでツーショット写真に収まり、晩餐会では英語スピーチでジョークを連発してご満悦だった。国会で裏金問題の追及を受けてみせる沈鬱な表情とは別人のようだった。
岸田内閣が発足した4カ月後、ロシアがウクライナに軍事侵攻した。それから岸田首相はバイデン政権に全面的に服従し、ロシアを強く非難してウクライナ支持を表明した。ウクライナのゼレンスキー政権に武器装備品を送り、1兆円を超える支援を打ち上げてきた。戦後復興でも巨額の財政負担を担う方針だ。
しかも東アジアの緊張が高まったとして、米国製ミサイル・トマホーク400発を総額2000億円で一括購入。米国内で長引くウクライナ支援への不満が高まり窮地に立つバイデン政権を財政面で徹底的に支えてきた。
岸田夫妻の国賓待遇の訪米は、バイデン政権に尽くしてきた「ご褒美」の側面が強い。同行記者団は「岸田首相は破格の厚遇を受けた」とワシントンから報じていたが、日本が米国に献上してきた「巨額の貢物」からすれば、ずいぶんと安い返礼である。
バイデン大統領は昨年6月、日本の防衛費の大幅増額について「私は3度にわたり日本の指導者と会い、説得した。彼自身も何か違うことをしなければならないと考えた」と明かし、岸田首相に増額を迫ったことをあけすけに暴露した。
今年5月1日には、日本をロシアや中国と同列に並べて「彼らは外国人嫌いだ。彼らは移民を望まない。移民こそが我が国を強くしている」と見下した。岸田首相を「金づるの配下」としか見ていないのだろう。
バイデン大統領は今年11月の大統領選でトランプ前大統領にリードを許している。米国内で批判が高まるウクライナやイスラエルへの外交政策について世論を納得させ、大統領選を勝ち抜くには、バイデン政権の言うがままに財政支援を肩代わりしてくれる岸田政権は「欠かせないアイテム」なのだ。
実はこれが岸田首相の唯一最大の自信の根拠なのである。
バイデン大統領は何があっても岸田首相を切り捨てない。日本国内で内閣支持率が低迷していても、自民党内で「岸田おろし」が動き出しても、バイデン政権の後ろ盾がある限り、岸田内閣は倒れない。
各界に働きかけ、岸田首相の総裁再選を陰に陽にサポートしてくれるはずだ。キングメーカーの麻生太郎副総裁も、非主流派のドンである菅義偉前首相も、ポスト岸田を狙う茂木敏充幹事長や石破茂元幹事長も、ポスト岸田に急浮上してきた上川陽子外相も、米国の意向には決して逆らえない。
日本国内でどんなに岸田批判が高まっても、バイデン政権に寄生して「一心同体」でさえあり続ければ、財界も官界もマスコミ界も岸田政権を見限らず、自民党内の大勢も最後は自分になびいてくる――岸田首相はそう確信している。「米政権の後ろ盾こそ最大の権力基盤」というわけだ。
もちろんバイデン大統領が11月の大統領選に敗れれば万事休すである。トランプ政権が復活すればウクライナ支援から撤退し、国際情勢は激変するだろう。バイデン政権に追従してきた岸田外交は居場所を失う。その時は自らも退場するほかないと岸田首相は腹をくくっているのかもしれない。
岸田首相にとって幸運なのは、米大統領選(11月)より自民党総裁選(9月)が先にやってくることだ。
仮に大統領選が先に行われ、トランプ政権が復活したら、岸田首相の総裁再選は絶望的である。だが、先に総裁選が行われる以上、バイデン氏がいくら劣勢で「もしトラ」に備えた動きが広がっていても、9月時点で勝敗は決していない。バイデン氏が土壇場で巻き返す可能性は残る。「バイデン政権の後ろ盾」は総裁選時点でなお一定の効力を維持しているに違いない。
岸田派関係者は「11月の米大統領選の行方を見定めるまで、9月の総裁選は岸田続投で様子を見るという流れをつくれれば、6月解散を見送っても総裁再選は可能ではないか」と期待を抱く。米大統領選でバイデン政権が継続すれば岸田首相も権力の座にとどまり、トランプ政権が復活すれば来春の予算成立を花道に退陣し、「新しい首相」に引き継いで来年7月に衆参同日選挙を行えばよい。
岸田首相が描くのは「日米連動政局」だ。バイデン政権と「運命共同体」になることで政権延命を図ろうというわけである。
岸田首相と真逆の立ち位置に陣取ったのが、岸田政権の「生みの親」である麻生氏だった。岸田首相がワシントンから帰国した後、入れ替わるようにニューヨークへ飛び立ち、トランプ前大統領とトランプタワーで会談したのだ。
岸田首相がワシントンでバイデン氏と過ごしていた頃、フロリダにあるトランプ氏の自宅「マール・ア・ラーゴ」を英国のキャメロン外相が訪れていた。米国と最も絆の深い同盟国である英国が露骨に「もしトラ」に動き出したのだ。世界の注目はワシントンよりフロリダに集まり、岸田首相の国賓待遇の訪米は米国内では見向きもされなかった。
麻生氏は日本で真っ先に「もしトラ」へ動いたといえる。
麻生氏は岸田政権のキングメーカーとして君臨してきた。子飼いの茂木幹事長とともに自民党本部に陣取り、岸田首相を首相官邸から呼びつけ、その3者会談で政権の大方針を決めてきたのである。岸田政権はまさに「麻生傀儡」だった。
岸田首相は麻生氏からの自立を模索してきた。最初に「親離れ」を画策したのは昨年9月の内閣改造・党役員人事だった。ポスト岸田への意欲を隠さない茂木幹事長の交代を目指したが、この時は麻生氏に土壇場で猛反対され断念した。それでも諦めなかった。財務省の後見役である麻生氏の意向を無視し、所得税減税を打ち上げたのだ。このあたりから岸田―麻生関係は冷え込み始めた。
両者の関係が決定的に悪化したのは、裏金事件を受けて岸田首相が独断で岸田派解散を表明した後だ。岸田首相が派閥解消を呼びかけたことで、安倍派、二階派、森山派が相次いで解散を表明し、茂木派も解散に追い込まれることになった。麻生派存続にこだわる麻生氏が逆に孤立する事態になったのである。麻生氏は激怒し、岸田首相への疑念を深めた。
岸田首相が派閥解消――安倍派処分――国賓待遇の訪米で支持率を回復させ、6月解散を断行するなら、麻生氏からの「親離れ」は完結するだろう。総選挙に勝利して総裁再選を果たせば、もはや麻生氏に頼る必要のない強力な政権基盤を手に入れることができる。
しかし支持率は回復せず、補選全敗で6月解散は困難になり、総裁選に向けて麻生氏と決別するわけにはいかなくなった。岸田―麻生関係は外見上はよりを戻し、つかず離れずの「仮面夫婦」状態にあるとみていい。
麻生氏は、9月の総裁選で岸田首相が再選を果たしても、新しい首相が誕生しても、トランプ氏との交渉窓口を独り占めすることで、キングメーカーの座に踏みとどまるつもりである。バイデン政権が麻生―トランプ会談に不信感を強めたのは気にも留めず、岸田首相とは裏腹に、トランプ勝利に賭けたのだ。
日本政界のトップ2はそろって「日米連動政局」を描いている。
それでは国内政局はどう動いていくのか。自民党内でただちに「岸田おろし」は広がらず、6月解散は見送られ、9月の総裁選までこう着状態が続くとみられる。
最大の鍵を握るのは、9月時点での米大統領選の情勢だ。バイデン劣勢が顕著になっている場合は、岸田首相は出馬を断念する可能性が高い。逆にバイデン氏が巻き返し優劣が混沌としている場合は、岸田首相は出馬に踏み切るだろう。
自民党内に「11月の米大統領選までは様子見」という空気が強まれば、岸田再選の可能性は十分にある。もちろん「ここで再選を許せば岸田首相が息を吹き返す」という危機感が強まり、石破氏や上川氏ら対抗馬へ支持が流れる展開もあり得る。
自民党総裁選で現職が敗れたのは1978年の福田赳夫首相だけだ。これを根拠に「岸田首相が再選を果たす」という見方も流れているが、これは説得力を欠く。なぜなら、歴代首相の多くは勝てないとみた場合は不出馬・退陣の道を選んだからだ。岸田首相の前任の菅義偉前首相がそうだった。
岸田首相も「勝てるかどうか」で出馬か不出馬を決めるだろう。歴代首相と違うのは、自民党内の情勢よりも米大統領選の情勢を最大のバロメーターとして決断する点だ。
自民党総裁選の行方は米大統領選の動向に大きく左右される。自民党の有力者たちは海の向こうの大統領選の動向を固唾を飲んで見守っている。主権国家としては不甲斐ないが、それが日本政治の現状である。
繰り返しになるが、仮に米大統領選が先に行われてバイデン氏が敗れ、トランプ政権が復活すれば、岸田首相が総裁選に出馬することはあり得なかった。大統領選に先立って総裁選が行われる手順前後が「すでに詰んでいる岸田政権」の命運を変えるのか。「日米連動政局」の先は読みにくい。
———-
———-
(ジャーナリスト 鮫島 浩)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする