「私にお金は流入しておりませんし、背任的なことは全くあり得ない」
こう述べたのは3月29日に警視庁の家宅捜索を受けた東京女子医科大学の岩本絹子理事長(77)。学内の説明会で、疑惑を否定して続投を表明した。だが、「女帝と疑惑のカネ」を結ぶ、第三の女と白いベンツの存在が明らかに――。
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疑惑の鍵を握る“第三の女”の正体
3月の家宅捜索は、岩本氏の秘書を10年以上にわたって務めた元職員の女性X(51)が、勤務実態がない同窓会組織「至誠会」から、不正に約2000万円の給与を得た特別背任の疑いによる。至誠会の会計担当だった、元事務長の男性Y(55)にも一連の容疑がかけられている。捜査令状の対象は、この2人だが、警視庁が本丸として追っているのは、岩本氏だと女子医大関係者は語る。
「刑事さんから聞かれたのは、女子医大の取引先からのキックバックと、岩本理事長との繋がりでした」
岩本氏が3月まで院長を務め、自宅を構えているのが、東京・江戸川区の葛西産婦人科である。ここの職員Zが、疑惑の鍵を握る“第三の女”として、警視庁が関心を抱いているという。
女子医大の取引先がZの会社に多額の金を支払う理由
岩本氏が大好きなタカラジェンヌのように長身で美貌のZには、3つの会社の社長という別の顔があった。医院の昼休み中、Zが白衣姿のままATMで多額の現金を引き出す様子が度々確認されている。
Zの会社の本店がある、東京・日本橋のビルを訪ねると、無人のバーチャルオフィスだった。業務実態がないダミー会社で、なぜ多額のカネを動かせるのか?
関係者の証言などから、Zの会社は女子医大の取引先企業と「営業協力」「サポート業務」などの名目で、巨額の業務委託契約を結んでいたことが判明した。
2017年、新校舎の設計などを女子医大から1億6800万円で受注した大手設計事務所は、同時期にZのダミー会社と「顧問契約」を締結。営業協力の成功報酬として、1080万円を支払っていた。
女子医大の取引先がZの会社に、なぜ多額の金を払う必要性があるのか。
その答えは、約10年前に始まった女子医大の大型施設を次々と建替える事業にあった。女子医大の元理事が証言する。
「2014年に岩本先生が、女子医大の副理事長に就任すると、校舎などの大型施設の建替えが怒濤のように始まりました。業者との癒着が噂になりましたが、岩本先生は反対意見を言わせない女帝だったので、誰も指摘できませんでした」
本当に岩本氏とダミー会社の間に接点はないのか?
この動きに合わせるように、Zは最初の会社を2015年に設立。女子医大から解体工事を一手に引き受けた大手解体業者と、業務委託契約を結ぶ。その会社代表が取材に応じた。
「Zさんの会社には10年間で約1億5000万円を払いました。この金額は警察の方が調べて教えてくれましたよ(笑)。『解体工事のキックバックじゃないのか』と刑事から指摘されましたが、絶対に違います」
解体業者は、Zの会社に解体工事のアドバイスやトラブル処理などの業務を依頼したという。
岩本氏の代理人(弁護士)に対して、Zの会社について質問状を送付したところ、「一切、把握も関与もしていない。便宜供与も受けていない」と回答した。
岩本氏とZのダミー会社の間に本当に接点はないのか? 取材で浮上してきたのが、白いベンツの高級RV車である。岩本氏が週末に外出する時など、プライベートで使用していることが確認できた。運転していたのは、2年前まで岩本氏の女子医大への通勤で専属運転手を務めていた、岩本氏の甥である。
質問状に対し、岩本氏からの回答は…
このベンツは2021年、Zの会社が約1200万円で購入していたことが判明。購入の原資は、女子医大の取引先から得た報酬である可能性が考えられる。
その後、「疑惑のベンツ」は、2022年にZの会社から、岩本氏が経営する個人会社に所有者が移転。そして今年3月、警視庁が家宅捜索を行う直前に、中古車店に売却されていた。
元検察官の落合洋司弁護士は、次のように指摘する。
「女子医大から受注した代金に、(ダミー会社への)キックバック分を上乗せしていると見て、警察は捜査している可能性が高い。取引先も共犯になる可能性がありますが、実務的には捜査協力させて立件しないことが多いです」
女子医大の取引先から多額の報酬を受けていた、ダミー会社。その会社が所有する「疑惑のベンツ」を使用し、自身の会社に所有者移転していた岩本氏。それでも全く関係がないと主張するのだろうか。
岩本氏に改めて質問状を送付すると、回答があった。
「(ベンツは)Zが個人で購入した車両と聞いていた。自分の会社が870万円で購入したが、名義の移転手続きなどはすべてZに任せていた。そもそも(ダミー会社の)存在すら知らない」
女子医大では疑惑のカネについて、第三者委員会を設置して7月末に調査結果を公表するという。
(岩澤 倫彦/週刊文春 2024年5月2日・9日号)