保守王国・和歌山で、自民党の次期衆院選小選挙区の候補者がいなくなり、県連が候補者を選び直す異例の事態となっている。党派閥の政治資金規正法違反事件の影響で、新2区から出馬予定だった二階俊博・元幹事長が不出馬を表明し、新1区からの立候補が内定していた鶴保庸介・元沖縄・北方相(参院議員)も世耕弘成・前参院幹事長が離党したことなどを受け、くら替えを断念したためだ。早期解散の可能性もあり、県連が擁立を急いでいる。(竹内涼)
「ゆっくりやっている間はない」
県連の山下直也幹事長は4日、和歌山市内での会合後、こう述べた。
昨年6月には、和歌山市、紀の川市、岩出市が選挙区となる新1区に鶴保氏、そのほかの市町村を選挙区とする新2区に現3区選出の二階元幹事長が候補者に決まっていた。現2区選出の石田真敏・元総務相は比例転出する方針となった。
衆院小選挙区の「10増10減」で県内の小選挙区は3から2に減ることを踏まえた対応。任期の折り返しとなった昨秋時点では、他党の候補者がほとんど決まっていない中、盤石の構えにみえた。
ところが、その後、党派閥の「政治とカネ」を巡る問題が噴出。東京地検特捜部が捜査する事件に発展した。安倍派幹部だった世耕氏は離党勧告処分を受け、二階派会長だった二階元幹事長は3月に記者会見し、次期衆院選に出馬しないことを明らかにした。県政界を 牽引 してきた実力者を次々と失う事態となった。
さらに鶴保氏は4月、くら替え出馬の断念を表明した。県選出の参院議員がいなくなることを危惧した県町村会などが留任を要請したことを考慮した。鶴保氏は「勝つか負けるかでは判断していない」と説明するが、県連内には「逆風の中でのくら替えは厳しいのでは」との声もあった。
新2区に二階元幹事長の三男、伸康氏が17日、出馬表明した。党に公認を求める方針だ。事件の余波に加え、世襲批判も想定されるが、伸康氏は「有権者の審判をいただくしかない」と述べた。
二階元幹事長は不出馬を表明した記者会見で、「地元の皆さんにお任せしている」として後継指名をしなかった。伸康氏とともに二階元幹事長を秘書として支えた長男の俊樹氏との激しい争いが予想されたが、二階元幹事長に近いとされる県町村会が4月24日、伸康氏に出馬を要請し、流れを作った。
だが、まだ予断を許さない。党を離党して無所属となった世耕氏の動きが流動的だ。「新2区から出るのでは」との臆測がある。
世耕氏は祖父が新2区の新宮市出身で、同市にゆかりが深く、以前からくら替えに強い意欲をみせてきた。ある県連幹部は「内輪もめは印象が悪い。直接対決は避けたい」と漏らす。
一方、新1区では難しい候補者調整を迫られている。
現1区は現在、知事を務める岸本周平氏が2009年衆院選で民主党(当時)の公認で初当選して以来、自民の候補者は5連敗を喫してきた。
岸本氏の知事選出馬に伴い、昨年4月に行われた衆院補欠選挙でも日本維新の会に敗れた。それだけに、県連にとっては1区での勝利は悲願だった。「勝てる候補」として鶴保氏に白羽の矢を立てたが、白紙に戻り、県連は苦慮している。公募で候補者を決める方向となっている。
県連は6月に開く予定の県連大会で両選挙区の候補者のお披露目を行いたい考えだ。ある県連幹部は「実力者を失い、厳しい。今こそ一枚岩にならないといけない」と危機感を募らせる。
新1区では、維新現職の林佑美氏が立候補の準備を進めており、参政党新人の林元将崇氏が出馬を表明している。新2区では、共産党新人の楠本文郎氏が立候補の意向を示している。