北海道・知床半島でヒグマが夏に人工林の根元を掘り返してセミの幼虫を食べるようになり、樹木の成長が悪化した、とする研究結果を高知大と東京大のチームが発表した。人の手が入った生息地でヒグマの新たな行動が生まれ、森林を育むという本来の生態的な役割を変化させたことを示しており、論文が国際科学誌に掲載された。
ヒグマは雑食性で、知床半島ではフキやセリ、サケやエゾシカなどを食べる。
チームの富田幹次・高知大助教によると、知床半島西側にある斜里町周辺では明治時代以降に開拓が進んで森林が伐採され、カラマツの人工林が作られた。
これまでの研究で、禁猟などの影響で増加したエゾシカが夏場にフキやセリを食べ尽くすようになったため、餌に困ったヒグマが人工林の根元を掘り返してセミの幼虫を食べるようになったことがわかっていた。人工林は根元まで太陽の光が届き、セミの幼虫がよく育つという。
富田助教は2019年6~7月、人工林でヒグマが幼虫を食べるために掘り返した場所と、掘り返されていない場所の土壌やカラマツの成長度合いを調査した。
その結果、掘り返された場所ではカラマツの根が傷ついたり、栄養となる窒素を含む土が根の周りから取り除かれたりしていた。また、カラマツの年輪の幅が00年以降、1割ほど狭くなっており、掘り返しによる成長の悪化が裏付けられた。
ヒグマは秋に川でサケを捕食し、その食べ残しが木の栄養になるなど、森林の生態系を育む役割を持つことが知られている。だが同町周辺ではセミの幼虫を食べるようになった結果、逆の影響を及ぼすようになった形だ。富田助教は「人為的な要因でヒグマの食性と生態的役割が変わり、木の成長に影響が出ている。ヒグマの役割について理解を深めたい」と話している。
佐藤喜和・酪農学園大教授(野生動物生態学)の話「今回の研究は人が環境を改変した結果、生態系に思いがけない影響が出ることを示したものだ。地球温暖化でヒグマの餌となる植物の芽吹く時期などが変わってきており、その影響で個体数や行動がどう変化しているのかも知りたい」