〈 「売掛やめました」歌舞伎町の中心でデカデカと看板で宣言した有名ホストに「本当に売掛してない?」「斡旋業してない?」「立ちんぼをどう思う?」と聞いてみた〉から続く
悪質ホストクラブの売掛問題に対する規制が強まっている。5月20日、東京都公安委員会は歌舞伎町にあるホストクラブの元従業員が、売掛金をめぐって女性客に売春させたとして逮捕・起訴された事件を受けて、全国で初めてホストクラブの営業取消処分を行なった。さらに22日には悪質ホストから被害を受けた女性と家族らが厚生労働省を訪れ、武見敬三厚労相と面会、武見厚労相は「相談体制を強化していく」と考えを示した。
当初は甘い言葉で誘惑するも「そのうちに殴ったり、首を絞めるようになった」という“非道”な悪質ホストAの写真
店側は「金の回収の強要や、女性をソープで働かせる指示はしていない」
従業員が売掛金を払わせるために女性客に売春をさせたとして逮捕・起訴された事件を受け、東京都公安委員会より全国で初めて営業取り消しの行政処分を受けたのは、歌舞伎町のホストクラブ「LOVE」。2023年1月、同店で当時「主任」という肩書きで働いていたホストA(当時28歳)が売春防止法違反容疑で逮捕されたことがきっかけだった。
「Aは2021年10月以降、女性客に多額の売掛金を要求した上『スカウトマンに紹介してもらってソープに行かせるから』『断るならもっとキツい仕事をさせる』などと脅迫。女性は吉原や地方のソープランドへ“出稼ぎ”をさせられた。この事件はA以外にも、風俗店に被害女性を紹介したスカウトマンや被害女性を働かせたソープランドの経営者など計13人が逮捕される“大捕り物”となりました」(当時取材した記者)
集英社オンライン編集部が21日、行政処分を受けた「LOVE」を訪れると、複数のホスト、スタッフが撤去のための片付けをしていた。一人のスタッフが記者を警戒しながら取材に応じた。「5月14日にオーナーより営業取消処分になることは聞いており、営業は19日まで行なっていました。書類を受け取ったのはまさに20日のことです。
事件を起こしたAはとても元気でハキハキした印象の男で『女性客が高額な売掛をしたいと言ってるから高いシャンパンを出してもいいか』と申し出をしてきた際は、店は当初止めていたんです。それでもAが一切引かなかったため売掛を許してしまった。ただ店側としては『なんとしても客から金を回収しろ』と強要はしてないし、Aが『女性客にソープに行け』なんて言っていたことは知りませんでした」
従業員の話は“言い訳”にも聞こえるが、店は今後どうなるのかを聞いた。「営業取消処分を受けたので、オーナーや役員らは今後5年間はホストクラブを経営できないようです。
従業員がやらかした責任は店にあるが、僕は18歳からホストクラブでしか働いたことがなく、現在36歳で、いまさら他のことはできない。今後どうするかはまだ何も考えられない」スタッフはそう肩を落とし、撤収作業に戻った。
「もっと自分のお金を使ってあげたい」「特別な存在でいたい」
その後の取材で、Aの“太客”だった女性Bさん(25歳)に話を聞くことができた。Bさんは「Aは“色恋営業”だった」と話す。「私はもともと新宿のアパレル店員でした。当時彼氏もいなくて、仕事終わりにそのまま家に帰るのも寂しくて、気を紛らわすために初めて行ったホストクラブが『LOVE』でした。初回なので何人ものホストがつくんですが、その日は急いで帰らなければいけなくてホストを指名せずに帰ったんです。席についた数名のホストからLINEが来ましたが、Aだけが『今から少し電話で話したい』と言ってきて2時間ほど話したんです。そして『また来てほしい』と言われました」
翌日もAは「おはよう」「何してるの?」などとマメに連絡をしてきたという。そして数日後『また店に来てくれないか?』と誘ってきたそうだ。「でも私は今の給料じゃ大金を使えないからと断ったんです。するとAは『お金は俺が渡すから、来てほしい』『会いたい』って…。店の前で待ち合わせると、Aは本当にお金を3万円渡してきました。その日の支払いは3万円で収まる会計で、Aの優しさを感じてしまいました」
Bさんはその日、Aから帰りがけに“アフター”を誘われ、食事に繰り出したという。「二人でご飯を食べました。そこで『今日は帰したくない』と言われ、ホテルへ行ったんです。でもAはホテルで手を出してこず『明日、このホテルから出勤すれば?』と近くのドンキホーテでメイク道具一式まで買ってくれて。彼氏みたいな気遣いをしてくれて、私は完全にAに心を奪われました」
3回目の来店時には、BさんはすでにAにすっかり心を奪われていた。2万円ほどの会計を自分で支払ったあとも「Aにもっと自分のお金を使ってあげたい」「Aが私を楽しませてくれたように、私もAを楽しませて支えてあげたい」、さらには「Aの特別な存在になりたい」とまで思うようになったBさんは自らアパレル店員を辞め吉原のソープランドで働き始めたという。
「Aに恋心を抱き、もっと稼ぎたいという思いから風俗で働きました。Aは心の隙間に入り込むのが上手だったし、女が自ら風俗で働くように仕向けることが上手だったと思います。思い返せば、私がAに『好き』と言ったことはあっても、Aから『好き』と言われたことはありませんでした」
「色恋営業ほど厄介なものはない」「ホストは悪質です」
Bさんはその後、一晩で最高200万円もの「シャンパンタワー」や「テキーラ観覧車」などをオーダーし、代金は売掛金として支払ったこともあった。「Aはその後、私の家に転がり込み、半同棲状態になりました。そうなるとAは本性をあらわし、仕事の鬱憤を私で晴らすかのように『死ね』と首を絞めてきたり、殴ってきたりもしました。私も連日の風俗勤務で心が病み、自殺未遂をしてしまいました。口喧嘩のなかでAは『客に好きと言ったり、結婚を匂わせれば詐欺になるからやらない』と言っていました。自分に惚れさせて沼らせる手段を使う卑劣な男でした」
そんな生活を送っていたBさんだが、その後、Aが別の女性宅に転がり込んで生活をするようになったことをきっかけに別れることができたという。Bさんも現在は別の男性と結婚し、新たな生活を始めている。悪質ホスト問題について「色恋営業ほど厄介なものはない。抜けだしづらい沼なのでそれを利用している点でホストは悪質です」と話す。
冒頭で報じた悪質ホストから被害を受けた女性の母親は、武見敬三厚労相らと面会した後にこのように述べていた。「大学生の娘がホストとマッチングアプリで出会い、交際を始めた。出会った当初、男は身分を隠していたが、ホストだと打ち明けられてからは半年で1200万円もの売掛金を作らされた。娘に泣きつかれ、警察や弁護士に相談するも受け入れてもらえず、泣く泣く娘とともに店に1200万円を支払いにいった。当時、娘はホストに洗脳されていて、親としては胸が張り裂ける悔しい思いをした」
悪質ホストの取り締まりが強化され、“売掛”が撲滅する日ははたして来るのだろうか。厚労省は今後、若い女性への周知のため相談窓口を設置し、相談にあたる職員に対して研修を行なうなど対応を強化する方針だ。
取材・文/河合桃子 集英社オンライン編集部ニュース班