「生きた化石」の謎に新たな知見 オオサンショウウオ生態 胃に生き餌閉じ込め、異物嘔吐

国の特別天然記念物オオサンショウウオ(別名ハンザキ)の胃は3つの区画に分かれ、異物を特殊な動きで食道側に押し戻し体外に吐き出す機能があることをNPO法人「日本ハンザキ研究所」(兵庫県朝来(あさご)市)の研究員らが解明し、論文にまとめた。謎多き「生きた化石」の生態に迫る研究成果といえ、同研究所は「オオサンショウウオが生きたエサを胃にとどめる工夫についても、新たな知見が得られた」としている。
学会機関誌に論文
論文をまとめたのは、同研究所の研究員、高木香里(かおり)さん(37)と同研究員で米バックネル大准教授の高橋瑞樹さん(50)、東京大大学院特定研究員の迫野貴大(たかひろ)さん(30)の3人。論文は両生類と爬虫(はちゅう)類に関する国際的な学会の機関誌に掲載される。
東京都八王子市出身の高木さんは東大大学院でトウキョウサンショウウオの生態などを研究し、博士号(農学)を取得した。2020年にニュージーランドで開かれた学会で、同研究所の岡田純(すみお)理事長と高橋さんに出会い、翌年から研究員になった。
オオサンショウウオは2300万年前には、すでに現在とほぼ同じ姿で地球上に存在していたとされ「生きた化石」ともいわれる。
「のんびりしているのに、(大昔の)環境変動や絶滅の危機を乗り越えてきている。他の生物にはない、独自の工夫や特別な生態を持っている」
高木さんはオオサンショウウオの謎と魅力をそう語る。
最後の1匹まで諦めず
朝来市は国内有数のオオサンショウウオの生息地とされ、今回の研究は令和4年4月、市内の川で死んだ個体の骨格標本をつくるために行った解剖がきっかけだった。
高木さんと迫野さんが解剖した個体は、筒状の胃の小腸側(後部)が折れて内側に入り込み、食道側(前部)に反転して飛び出ていた。しかし2人はそれまでオオサンショウウオの胃を直接みたことがなかった。「こういうものなのかな」
同10月には過去に同研究所で死ぬなどして冷凍保存していた6匹を解剖することに。最初の2匹の胃は反転しておらず、4月の個体が「病気だったのでは」との思いがよぎる。
ただ、カエル類などには体内に摂取した異物を吐き出す機能がある。高木さんたちは、4月の反転が「オオサンショウウオの生態の何かを示しているかもしれない」と考え、諦めずに残る4匹も解剖。最後の1匹で反転を確認し「うれしくて、跳びはねました」。
胃に3つの区画構造
今回の研究で、オオサンショウウオの胃は紡錘形のような筒状で3つの区画があることが分かった。こうした構造は他のサンショウウオではみられないという。
高木さんによると、オオサンショウウオは水中の魚やカニなどを水ごと丸飲みするため、胃の中で生きたまま暴れるエサを真ん中の区画に閉じ込めて消化していると考えられる。高橋さんを含む3人でデータを解析するなどし、特殊な区画構造には、腸などからの分泌液と胃液が混ざらないようにしたり、危険な異物などを反転によって瞬時に吐き出したりする機能があると結論付けた。
高木さんは「オオサンショウウオの胃にさまざまな機能があることが分かり、驚いている。こうした機能があることが水中で長く生き続けられる理由ではないか」と話している。
第一人者が創設
高木さんらが所属する日本ハンザキ研究所は、オオサンショウウオ研究の第一人者で、兵庫県姫路市立水族館館長などを歴任した生物学者の栃本武良さん(令和元年に78歳で死去)が平成17年に創設した。
設立趣意書では「オオサンショウウオとそれを取り巻く自然環境の保全及び復元」を目指すとし、調査・研究などを通じて持続可能な社会の構築に寄与することを目的としている。(谷下秀洋)
オオサンショウウオ 日本固有種で世界最大級の両生類。昭和27年に国の特別天然記念物に指定され、環境省のレッドリストでは絶滅の危険が増大している「絶滅危惧Ⅱ類」に分類。夜行性で西日本を中心に清澄な河川に生息し、一生を水中で過ごす。幼生時はえら呼吸、成体になると肺呼吸と皮膚呼吸に変わる。体長150センチ、重さ35キロ程度まで成長したり、飼育下で50年ほど生きたりした例もあるが、野生での寿命をはじめ生態については分かっていないことが多い。

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