死後に引き取り手のない「無縁遺体」の取り扱いに各自治体が頭を悩ませている。無縁遺体は年々増えるうえ、親族と連絡が取れても引き取りを拒否されるなどして手続きが長期化。事務処理のミスで遺体が火葬されずに3年以上放置される事例も起きた。独居高齢者から生前のうちに葬儀・納骨の相談に乗る自治体もあるが、少数にとどまる。(中部支社 戸田貴也、乙部修平)
名古屋市東区の葬儀会社「セレモニー白壁」で4月中旬、78歳で亡くなった男性の葬儀が行われた。男性に身寄りはなく、参列したのは、男性の生活支援に当たっていたNPO法人の職員ただ一人。遺体は僧侶と職員に見送られ、火葬場へと向かった。
同社によると、男性は生前、生活保護を受給しながら独りで暮らしていた。3月下旬に亡くなった後、社内の低温の保管所で遺体を預かっている間、市が親族を探しだし、遺体の引き取りを求めたが、拒否されて「無縁葬」になったという。
同社が行う年間300件近い葬儀のうち、無縁遺体が半分近くを占める。保管所は10人分しかなく、度々満杯になる。同社の後藤雅夫社長は「葬儀件数はほぼ横ばいなのに、無縁遺体の数はどんどん増えている。今後、さらに増えるだろう」と話す。
読売新聞が政令市など主要自治体計74市区に実施したアンケートでは、東京都品川区や福岡市など16市区が、無縁遺体を1か月以上保管したことがあると回答。長期保管が各地で相次いでいる実態が浮かび上がった。
無縁遺体の増加と長期保管の理由として多くの自治体が挙げるのが、独居高齢者の増加と親族間の付き合いの希薄化だ。東京都足立区は「兄弟や姉妹に連絡しても引き取らないケースが多く、無縁遺体は増え続けている」と回答。札幌市の担当者は「北海道外の親族に、遺体の搬送や葬儀参列に手間がかかると引き取りを断られるケースがあった」と明かす。
親族の意向調査の難しさを指摘する声も多い。各自治体は死亡者の戸籍などから親族を割り出し、引き取りの意向を確認するが、連絡が取れるまで遺体の火葬を待つことが珍しくない。また、各自治体が調査する親族の範囲は「3親等まで」や「配偶者や子供」などとまちまち。福島市の担当者は「親族調査が数年に及ぶこともあり、自治体の負担は大きい。国は詳細な指針を示してほしい」と訴える。
無縁遺体の不適切な取り扱いも相次ぐ。名古屋市では2022~23年、担当者が事務処理を忘れるなどして、身寄りのない計15人の遺体を最長3年4か月間、放置したことが判明した。愛知県岡崎市では23年、自治体からの委託を受け、葬祭業者が身寄りのない2人の遺体を空き施設に保管していたところ、住民の通報で警察が駆けつける騒ぎも起きた。施設関係者は取材に「数年前に廃業した場所で、知り合いの業者に勝手に置かれた」と釈明した。
一方、生前にあらかじめ、葬儀の形式やお墓を決めておくよう独居高齢者に働きかける取り組みも始まっている。
神奈川県横須賀市は15年度から、身寄りのない独居高齢者を対象に、葬儀や納骨の相談に応じる事業を行っている。死後は本人が希望する葬儀を行えるよう、生前に取り交わした葬儀や遺品整理に関する契約先のほか、お墓の場所、遺言状の保管場所などを市に登録する。
市の担当者は「本人の意向を無視して遺体を取り扱うのは、職員にも心理的抵抗がある。市民の『終活』を支援するのが自治体の役目だと思っている」と語る。
ただ、このような取り組みは一部にとどまる。無縁遺体に詳しい国立歴史民俗博物館の山田慎也副館長(民俗学)は、「政府は自治体や現場任せにせず、医療や介護、福祉、宗教の関係者と連携しながら、統一的な制度設計を急ぐべきではないか」と訴える。