平成17年11月、東京都三鷹市のアパート居室で住人の居酒屋副店長、永野和男さん=当時(53)=が殺害された事件で、警視庁捜査1課は4日、殺人の疑いで、重要指名手配されていた元暴力団組員の上地恵栄容疑者=死亡時(49)=を、被疑者死亡のまま東京地検立川支部へ書類送検した。
事件発生から送検までの6千日以上、寄せられた情報は1632件。警視庁は上地恵栄容疑者の〝幻影〟に追われ続けた。容疑者死亡の可能性を視野に、資料の洗い直しを進めたことで死亡していたことが判明した上地容疑者。長い歳月を経て、重要指名手配事件は区切りを迎えた。
「大阪にいる!」わきたつ捜査1課
「大阪にいる!」。令和3年12月中旬、未解決事件の捜査を担う警視庁捜査1課特命捜査係(特命班)はわきたった。手配中の上地容疑者とみられる男性の目撃情報が寄せられたからだ。1課は捜査員を約2週間にわたって大阪府内へ派遣。粘り強い捜査で、目撃対象の男性にたどり着いたが、結果は別人だった。
上地容疑者は事件からほどなく死亡していた。平成18年3月8日午後3時ごろ、石川県加賀市の山中温泉近くで遊歩道を歩いていた男性観光客の目に映ったのは、木にぶら下がった遺体だった。身分証はなく、現金約4万5千円と眼鏡が残されていたのみ。身元不明の変死体としてDNA型と指紋が採取された。
遺体の身元ただちに特定されず
遺体の身元はただちに特定されなかった。要因の一つが遺体のミイラ化だ。警視庁は早い段階から、事件現場に遺留された上地容疑者の指紋を変死者の記録と照合してきたが、遺体の指紋は劣化して変形しており、容疑者のものと一致しなかった。
また、事件現場に残された上地容疑者のパンツには血痕が付着していたが、容疑者の血痕と確定できなかったことなどから、コストがかかるDNA型鑑定には至らなかったという。
今年に入り、情報提供の減少を踏まえて捜査1課は上地容疑者の死亡を視野に本格的な再捜査を開始する。血痕を上地容疑者のものと特定した上で、警察庁の「変死者等DNA型記録」と照合したところ、18年前に発見された遺体が浮上した。
1課は捜査員を石川県へ派遣。4月26日、遺体から採取された指紋記録の鑑定を実施したところ、右手中指の指紋の特徴点が一致し、上地容疑者の死が判明した。
殺害された永野和男さんには妹がいた。4日、書類送検を報告した捜査幹部へ妹は「これで事件は終わりですね。ありがとうございました」と語ったという。