自民党派閥を巡る政治資金規正法違反事件を受け、2007年以来となる同法の大幅改正が6日、法案の衆院通過で実現の運びとなった。事件の舞台となった政治資金パーティーの透明化や、政治家本人の罰則強化が図られるが、「抜け穴」や曖昧な点も残り、専門家は「継続的な規制の強化が必要だ」と指摘している。
「5万円ほどで社名が公表されるなら、買い方を考え直さなければならない」。パーティー券購入者の公開基準が20万円超から5万円超に引き下げられることに、東京都内のコンサルタント会社幹部は困惑した様子で語った。
同社は複数の自民党議員から頼まれ、派閥や議員個人のパーティー券購入を続けてきた。ただ社名が政治資金収支報告書に掲載され、「政治家と癒着している」と批判されるのを嫌うトップの意向で、購入額は20万円に抑えていたという。この幹部は同党側への陳情は必要だとして、「今まで買っていなかった議員のパーティー券も含めて『広く薄く』購入していくことを考えたい」と話す。
1948年に議員立法で作られた政治資金規正法は、政治とカネを巡る問題のたびに政治家らの手で改正が重ねられ、特に企業・団体献金は厳しく制限されてきたが、事件は後を絶たない。年間5万円超で公開対象となる寄付に比べ、匿名性の高いパーティーは企業・団体献金制限の抜け道との批判が根強く、今回の事件でも派閥や所属議員側のキックバック(還流)による「裏金化」の温床となっていた実態が明るみに出た。
谷口将紀・東京大教授(政治学)は公開基準の引き下げについて、「政治資金の透明性向上につながり、一定の評価はできる」と指摘。その上で、「1回のパーティーで同じ企業の複数社員が5万円ずつ買うようなケースも想定されるし、開催回数を増やせば改正前と同規模の資金集めができる。法の穴をつくような手法が出てきた場合にはさらなる規制が必要だ」と語る。
一方で、国会の議論や改正案の中身については不満の声も出ている。安倍派のパーティー券を買っていた都内の会社社長は「大騒ぎしたわりには中途半端だ。パーティー券を買った人は全て公開対象にすべきだ」と話す。
収支報告書 議員の「確認」基準曖昧
閣僚らの政治団体が多額の光熱水費を計上していた問題などを受けた2007年以来、17年ぶりの規模となる今回の改正は、政治家本人の罰則強化を図る規定の導入も目玉だ。
政治資金規正法は収支報告書の記載・提出義務を政治団体の会計責任者に課している。秘書ら会計責任者が摘発された過去の事件で、政治家が立件されるのは共謀が成立した場合に限られてきた。今回の事件でも、秘書らとの共謀が認定された安倍派議員3人が立件された一方、秘書が略式起訴された二階俊博・元党幹事長は法的責任を問われていない。
改正案では、会計責任者が有罪となれば、一定の要件のもとに政治家本人も処罰し、失職させるとした。具体的には、議員に収支報告書の内容の適法性を保証する「確認書」の作成を義務づけ、確認が不十分な場合に50万円以下の罰金を科し、公民権も停止される。議員本人が「報告書の作成は秘書に任せていた」として自身の関与を否定しても、刑事責任を問われる可能性が生じるが、何をもって「確認が不十分」とみなすかの基準は曖昧だ。
検察幹部の一人は「不記載や虚偽記載への一定の抑止力になるが、捜査の実務上は判断に迷う点も出るだろう」と説明。別の幹部は「議員が秘書に陥れられていないかなどを細かく見極める必要がある」と話した。
改正案には、政治家が自ら代表を務める政党支部に寄付した場合の税制優遇措置について、適用除外を検討する規定も盛り込まれた。
政党や政党支部、政治資金団体への寄付額の約3割が所得税から控除されるなどの優遇措置は本来、国民の政治参加の推進を目的としている。だが先月以降、複数の自民党議員が政党支部に個人名義で寄付し、税額控除を受けていたことが判明。国会などで「道義的に問題だ」との批判が噴出している。
富崎隆・駒沢大教授(政治学)は「政治不信が高まっている今、政治資金の透明化と公私の区別を徹底しなければ、国民は納得しない。改正案では『検討』と曖昧な文言が使われているが、より抜本的で本格的な改革が必須だ」と指摘する。