東京・秋葉原の歩行者天国で7人が死亡し、10人が重軽傷を負った無差別殺傷事件から8日で16年。面識のない人を無差別に襲う凄惨(せいさん)な事件は形を変えながら繰り返されている。根本的な対策は難しいが、社会と個人の意識の変化が凶行を止める契機になり得ると専門家は訴える。
事件で犯行に使用されたのは刃渡り約13センチの両刃のダガーナイフ。警察庁は短刀の規制も検討し、事件翌年の平成21年1月、刃渡り5・5センチ以上の両刃の刃物を所持することを禁じる改正銃刀法が施行された。
小田急線の車内で令和3年、男が刃物を振り回し、乗客10人に重軽傷を負わせた事件後には、鉄道各社は警察などとの合同訓練を定期的に実施。警備員の巡回や防犯カメラの確認頻度を上げるなどの対策を取っている。
事件が起きるたびに、関係機関が再発防止のための対策を取ってはいるが、日本大危機管理学部の福田充教授(危機管理学)は「根本的には防ぎようがない」と指摘する。
特に無差別襲撃事件で目立つのが事件の〝連鎖〟だ。平成22年6月には広島県のマツダ本社工場内で車を暴走させ、1人を殺害、10人に重軽傷を負わせた男は、秋葉原事件を参考にしたと供述。事件後には「秋葉原を超えた」と知人に電話していた。
令和3年10月、京王線車内で18人が重軽傷を負った刺傷事件の犯人の男は公判などで「死刑になりたいと思い、約2カ月前に発生した小田急線刺傷事件を参考に事件を計画した」と明かしている。
福田氏は無差別襲撃事件を「自暴自棄犯罪」とし、犯人の心情を「社会への復讐(ふくしゅう)感情を持つ人にとって、人を巻き込むことが自己救済になってしまう」と指摘。精神的な不調を抱える人を医療面のケアにつなげるため、警察や行政、地域の連携の強化を促す。
一方、福田氏は、万が一、事件の現場に居合わせた場合、日常の延長だと思い込んで普段通りに過ごそうとする情動「正常性バイアス」が働く可能性があるとも指摘。「どんな空間でも犯罪に巻き込まれるリスクはあると意識するのが重要。少しでも異変を感じたらその場から逃げてほしい」と強調した。(内田優作)
■秋葉原無差別殺傷事件
平成20年6月8日午後0時半ごろ、東京・秋葉原で、加藤智大(ともひろ)元死刑囚がトラックで歩行者天国に突っ込み、通行人をはねた。逃げ遅れた人をダガーナイフで襲撃。7人が死亡し、10人が重軽傷を負った。加藤元死刑囚は殺人などの罪で起訴され、27年に最高裁で刑が確定。令和4年7月に死刑が執行された。執行当時は39歳だった。