鹿児島県警 ネットメディア捜索後、取材データを一方的に消去か

鹿児島県警が、刑事裁判のやり直しを求める再審請求で弁護側に利用されるのを防ごうと、捜査書類の速やかな廃棄を促す内部文書を作成していた問題で、この文書を掲載したインターネットメディアが、別の事件の関係先として県警から捜索され、文書データを強制削除された疑いがあることが判明した。同メディア代表の男性記者が明らかにした。男性記者は弁護士を通じ、県警に13日付で「苦情申出書」を送付し「取材情報を隠滅する行為で、許されない」などと訴えている。
ネットメディアは、福岡市に拠点を置く「ニュースサイト ハンター」。県警に批判的な記事を書く中で2023年秋、独自入手したとして県警の内部文書を自社サイトに掲載した。
内部文書は、適正な捜査の推進のための執務資料として県警が作成し、捜査員らに23年10月2日付で配布した「刑事企画課だより」。「再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!」と強調し、「未送致書類であっても、不要な書類は適宜廃棄」などと呼びかける内容だった。
一方、県警は24年4月8日、捜査に関連する情報などを外部に漏らしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反容疑で県警曽於(そお)署の男性巡査長(当時)=同違反で起訴=を逮捕。苦情申出書によると、この事件の関係先としてハンターの男性記者宅も同日、県警の家宅捜索を受けた。男性記者は裁判所の捜索令状を見せるよう求めたが、捜査員から示されず、内部文書のデータが入ったパソコンなどを押収された。
翌日、パソコンを返却されたが、捜査員から内部文書を削除していいかと尋ねられたという。男性記者は、捜索対象の事件とは無関係だなどとして拒否したが、捜査員は「内部文書ですから」と述べて一方的に消去したと訴えている。
男性記者の代理人弁護士によると、男性記者は家宅捜索を受ける前の24年2月、サイトに掲載した捜査関係資料の一部を任意提出すると申し出たが、県警から受け取りを拒否されたという。男性記者は「不必要な強制捜査だった」とした上で「捜査機関がデータを消去する法的根拠は一切ない」と批判。「このような手法で取材活動を侵すことなど決して許されてはならない」と訴えている。
県警は毎日新聞の取材に対し、男性記者宅を家宅捜索したか「捜査上のことなので言えない」とし、申出書の授受についても「個人情報保護の観点から回答は差し控える」としている。
甲南大の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は、県警がハンターを捜索したことについて「メディアへの捜索は、報道の自由への萎縮効果を考えれば、例外的であるべきだ。任意提出で済んでいたのに、あえて強制捜査をしていたならば問題だろう。先に捜索に着手しなければ証拠が廃棄される恐れが迫っているなどの例外的事情がない限り、令状を示すことも当然必要だ」と指摘する。
文書データの強制削除については「押収物は被押収者への還付が原則だ。捜査機関が強制的に押収物のデータを削除できるとする根拠規定は刑事訴訟法などには見当たらない。もともとは県警の内部文書であることも理由にならず、同意のない削除は明らかに被押収者に対する権利侵害だ。消去したものが他人の刑事事件の証拠になり得る場合は証拠隠滅罪になる可能性すらある」と語る。
ジャーナリストの江川紹子さんは「ハンターは小さいながらも、警察の問題を追及してきた報道機関だ。内部告発を受けて不正を報じた報道機関が強制捜査されたうえデータを消去されるようなことを許せば、公権力の不正情報を集めて報道することが難しくなる。鹿児島県警の行為は報道の自由の侵害だ」と話した。【取違剛】

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