東京女子医科大の教員、昇格時に同窓会へ入金「職を買った気がした」…理事から「ポイント不足」指摘

高度・先進医療を担う東京女子医科大で、教員の採用や昇格に同窓会組織にいくら寄付したかが考慮されていた。昇格などを望む人に大学理事らが寄付を働きかけており、専門家は人事の公平性などに問題があると指摘する。(井上宗典、小林岳人)

「お金で職を買っている気がして、すごく嫌だった」。数年前、昇格の申請時に同窓会組織「至誠会」への寄付を求められた同大のある教員は、当時を振り返り、悔しさをにじませた。
申請に至誠会発行の「活動状況報告書」が必要だと知ったのは、提出書類を確認していた時だった。発行を依頼すると、突然、同会理事を兼ねる大学理事から電話があり、「ポイントが足りない」と告げられた。
同会主催の研修会や講演会などに出席すれば「至誠会ポイント」が付与され、それが昇格の際に必要になることは知っていた。だが、日々の患者対応で忙しく、なかなか出られなかった。
「寄付でもポイントはもらえる」。理事はそう言って、金額を提示してきた。教員は診療経験や論文本数など、他の実績は十分あり、「機会を逃したくない」とやむなく入金した。審査を経て昇格したが、「至誠会の行事は限られており、ポイントをためるのは大変。寄付するしかなかった」と憤る。

この仕組みは2018年6月に始まった。関係者によると、当時、至誠会代表理事と大学副理事長を兼務していた岩本絹子理事長(77)らによって検討されたもので、卒業生に同会への寄付や主催行事への参加を促す狙いがあったという。
同大は「教員選考基準」で各職位の要件を定めている。教育や研究、診療の各業績などに加え、社会貢献の実績を評価の対象にする一方、活動状況報告書を選考に利用するとは明記されていなかった。
だが、実際は活動状況報告書にポイントの点数が記載され、点数の合計によって「非常に良い」から「非常に悪い」の5段階の評価がつき、採用、昇格の判断に利用されていた。
読売新聞が入手した18年6月開催の至誠会定例理事会の議事録には、教員の評価を巡って、生々しいやり取りが残されている。
岩本氏は、至誠会から学術助成金を受けたある教員が、同会の行事に出席していないことを問題視。この教員の活動状況報告書の評価は「非常に悪い」だと大学学務課に伝えたとし、「『非常に悪い』がついた人は昇格は1年停止です。『悪い』がついた人は半年から3か月」と述べたと記録されていた。
議事録には、岩本氏がその後、「寄付も50万円以上出すなら2点入るんですよ。極端に言えばですよ。金で買うのかと、そういうことじゃなくてですね。寄付によって至誠会で公益事業がやれるんですから」と述べたとも記されていた。

同大は今年3月、岩本氏の元側近職員に対する至誠会からの給与支出を巡り、警視庁の捜索を受けた。病棟工事などを巡り、この元職員が運営に関与した会社が、元請け業者から1億円超を得ていたことも判明しており、大学は第三者委員会を設置して調査している。
同大のベテラン教授の一人は、寄付が採用や昇格に影響した仕組みについて「事実上、寄付の強要だ。理事から昇格前に寄付を求められ、医局を去った人もいる。第三者委員会で学内のガバナンスを検証してほしい」と話した。
筑波大の金子元久特命教授(高等教育論)の話「教員人事は公正・公平性が求められ、同窓会だとしても外部組織が関与することは本来あってはならない。同窓会組織への寄付は、特定の団体の事業に便宜を図るもので、純粋な社会貢献と言えないだろう」
岩手大の大川一毅教授(大学評価論)の話「教員資格の要件は学校教育法などで定められているが、具体的な選考方法については大学の裁量に任されている。しかし、同窓会組織への寄付額を判断材料にすることは一般的な倫理に反しており、批判は免れない」

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