NNNと読売新聞が今月21日から23日まで行った世論調査で、岸田内閣の支持率は23%と、政権発足以来最低を再び更新しました。この事態に、菅前首相をはじめ自民党議員らは、公然と“岸田交代”の声をあげ始めました。一方、自民党のベテラン議員によると、“ポスト岸田”の有力候補として名前の挙がる石破元幹事長には、“壁”が存在するといいます。日本テレビ政治部デスクの竹内真と解説委員の菅原薫の同期コンビが解説します。
【竹内】
岸田内閣の支持率が、また、発足以来最低を更新しました。これまでの最低は24%でしたが、今回は23%。1ポイントですので、調査の規模からいうと誤差という見方もできますが、最低は最低です。
【菅原】
まだ下がることは「あるかな」と思っていましたが…。永田町の受け止めは、どうですか。
【竹内】
自民党の関係者からは、「(イタリア)G7サミット、物価高対策発表後の数字としては厳しい結果だ」という感想がありました。また、自民党の閣僚経験者の一人は、「総理は4万円の定額減税にかけていたところがあるのに、つらいだろう」という見方を示しています。しかし、自民党議員からさえ、「この減税というのは、国民に見透かされている」、つまり、ご機嫌取りというか、人気取りをしようとしていることが見抜かれている、と指摘する声もあります。
【竹内】
実際、今回の調査でも、この年4万円の定額減税について聞いてみましたら、評価しないが59%でしたから、あまり評判がよかったとは言い難いです。
【菅原】
厳しい状況が続くなか、ついに自民党内から動きが出てきましたね。
【竹内】
北海道の自民党の会合で、若手議員が「岸田総理・総裁は、ゆめゆめ再選などと口にしないでほしい」と、岸田首相の再選に公然と反対を表明しました。
【菅原】
こういう声が出てくると、いよいよ政局という感じが出てきますね。
【竹内】
本当ですね。さらに、若手だけではなく、大物議員の菅前首相も「総理が責任をとっておらず、不信感を持つ国民は多い。総裁選で国民に刷新感を持ってもらえるかが大きな節目になる」と話し、さらに司会者から「新しいリーダーが出てくるべきか」と聞かれ、はっきりと「そう思います」と。“総理は交代した方がよい ”という考えを示しました。
【菅原】
若手議員が言うのと、菅前首相のように一定の影響力のある人が発言するのとでは、意味合いも変わってきますよね。
【竹内】
全くその通りです。ある有力な閣僚経験者は、「菅さんの発言は注目されている。空気が変わった。自民党内部から公然と総理を批判する声が出始めた」と感想を述べてました。
【菅原】
岸田さんサイドはどうなんですか。
【竹内】
総理の側近に聞くと、表向きには、「耐えるしかない。ポスト岸田候補と切磋琢磨して自民党の力を見せるチャンスにもなる」と言っています。つまり、「政策論争を通じて自民党の活力をアピールするんだ」と言っているのですが…。一方で、「もう岸田さんは立っていられないだろう」ですとか、「続投は厳しい」という声がとても数多く上がっています。ベテランの閣僚経験者は、もう言葉を選ばず、「悲惨なことになっている。次の選挙ではみんなボロボロと落ちてしまう」と危機感をあらわにしていました。もう少し若い中堅議員は、「岸田さんでは選挙に勝てない。もう代わってもらわないと困る」と言ってます。与党の幹部からも、「9月の総裁選までは岸田さんだ。けれど、その先はふさわしい人が選ばれるのを見守る」と言っていて、もう“岸田首相が交代することが前提”のような話しぶりでした。
【菅原】
ここまでそういう流れができてしまうと、もう止められないですよね。
【竹内】
いや、本当にそうだと思います。いわゆる洪水とか雪崩のように、もうとても押しとどめることは難しいのではないかと。経験上、そう思います。
【菅原】
そうなると、“ポスト岸田”を争う総裁選の座組がどうなるのかですね。
【竹内】
今回の世論調査では、ちょっと“異変”がありました。というのも、これまで、ワンツースリーは“小石河”と呼ばれる、小泉元環境相、石破元幹事長、河野デジタル相の3人だったのですが、このうちの河野氏が5位に下がってしまったんです。前回の調査は10%あって3位でしたが、今回は4ポイント下げて6%になってしまいました。
理由はいろいろと言われていますが、ある閣僚経験者は、「だんだんみんな彼(河野氏)のことがわかってきたんだろう。中国の問題とか」と指摘していました。“中国の問題”というのは、いわゆる“中国企業のロゴ問題”のことです。エネルギー政策に関する河野氏の私的懇談会に、中国との距離が近いとされる委員が起用され、この人が提出した資料に、中国の国営電力会社のロゴが入っていたことが明らかになりました。この問題によって、「中国の意向で、日本のエネルギー政策がゆがめられているのではないか」と疑う声があがり、それ以来、河野氏は“中国に近いのではないか”というように見られている、これが支持率低下の原因ではないかというのです。それだけではなく、タクシー不足を打開するとして注目されたライドシェアの解禁がうまく進まなかったことや、マイナンバーのトラブルが影響したという指摘もあります。
【菅原】
“小石河”のほかの二人、石破氏と小泉氏はどうですか?
【竹内】
小泉氏はまだ40代と若く、菅氏が強調していた“刷新感”は出ますよね。ただ、逆に“若い”ということは、「経験が足りない。若すぎる」と不安視する見方にもつながってるようなんです。
【菅原】
実際に、父の小泉純一郎元首相も「まだ早い」と言っていると伝わっています。では、石破氏はどうでしょう。
【竹内】
私たちの世論調査では、今回も石破氏が1位でした。こうした“ポスト岸田”の調査は、去年の12月から、これで5回目ですが、全て石破氏が1位です。国民からの支持、人気というものがやはり、石破氏の最大の武器です。ある野党幹部も、「(自民党の党首が)石破さんになったらかなり痛い。岸田さんで衆院選をやりたい」と言ってました。
【菅原】
なるほど、本音ですね。ただ、自民党内では“反石破”の人も多いですよね。たとえば、麻生副総裁ですとか…。
【竹内】
そうですね。一方で、これだけ自民党が弱っているので、ちょっと面白い見方が出ています。自民党の経験豊富な議員が言っていたのですが、「石破さんの支持率が30%を超えたら、自民党内は “石破容認”、“石破支持”に傾くだろう」と。「自民党内に“石破アレルギー”はすごくあるけれど、国民の支持率が30%を超えれば、『石破さんが党首のほうが、自分も当選できる』と思うようになり、アレルギーどころではなくなるだろう」と。
【菅原】
それは“議員心理”という感じですね。絶対的にやはり、「自分が選挙で勝てるかどうか」ということを第1条件にもってきますよね。
【竹内】
そうなんです。もう“好き嫌い”なんて言っていられないということですね。
【菅原】
特に、小選挙区制では、党首のイメージというか、党首の“顔”で戦うというところが大きいですよね。
【竹内】
ただ、同時に、このベテラン議員はこんなことも言っています。「石破さんは支持率が20%台から伸びていない。30%台になるのは簡単じゃない。石破さんには支持率30%という壁がある」と。
【菅原】
秋の総裁選をにらみ、何がポイントになってくると思いますか?
【竹内】
これはズバリ、菅氏ではないかと私は思います。今回、いち早く“岸田交代”に言及したわけですが、これは大物議員としては異例の早さだと思います。菅氏の狙いとしては、慎重に状況を見極めてから発言するというよりは、「いち早く行動をおこして、主導権を確保しようと“仕掛けた”」ということだと思います。
【菅原】
人よりも自分が先に動くことによって、菅氏への求心力も働くし、そもそも菅氏は「一定数の固まりを形成できる」と目されてるわけですから、余計、その効果は高いかもしれないですね。
【竹内】
党内にもそういう見方が多いんです。あるベテラン議員は、「政局のキーマンとして菅さんの存在感が増している」と言っていて、若手議員も「菅さんの影響力が、これからさらに高まる予感がする」と言ってます。
【菅原】
竹内デスクは菅氏の担当も長かったですけれど、やはり“勝負師”のような印象ですか。
【竹内】
菅氏は、都市部、横浜の選出の議員だからということもあってか、世論に敏感のように見えます。世の中の人が、「どういうことを求めているか」ということを汲み取ることが、上手な議員であると。もう一つは、今回、先陣を切って岸田首相のことを批判したこともそうなんですが、慎重派というよりは、勝負に出るときには一気に出る、というところが菅氏の特徴だと思います。
【菅原】
菅氏は、同じ神奈川ということで小泉進次郎氏を後押ししてきましたけれど、総裁選では誰を推すのかというのも注目ですね。
【竹内】
そうですね。菅氏が誰を推すかというのは、やはり総裁選の勝敗を分けるポイントになると思います。ただ、やはり自民党は、「ただ新しい“顔”を選ぶ」だけになってしまってはダメだと思います。
【菅原】
「表紙を変えるだけではダメだ」ということですね。
【竹内】
まさにそうです。今の自民党の低迷は、いわゆる統一教会との関係が「おかしいのでは」と指摘されたことから始まり、派閥の“政治とカネの問題”が決定的な要因となりました。さらに、こうした問題に「きちんと対応している」と国民に受け止められていないからこそ、いまも回復できないのだと思います。特定の団体との関係や政治資金の問題。それらを「どう改善するか」ということに答えを出すことが求められています。それをせずに、「新しい総裁を選んで、目先を変えればやり過ごせる」ということでは、国民から見透かされて、より厳しい審判が下されることになりかねないと思います。
(日本テレビ政治部デスク 竹内真 解説委員 菅原薫)
■NNN・読売新聞世論調査
(6月21日から23日 全国有権者に電話調査)
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