山上被告に触発され銃製造「自分もできると思った」…安倍氏銃撃2年、「単独攻撃」対策道半ば

安倍晋三・元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃されて死亡した事件は、8日で発生から2年となった。現行犯逮捕され、殺人など五つの罪で起訴された山上徹也被告(43)。その行動に影響を受け、手製銃を作ったとして起訴された男が取材に応じた。「社会に失望した」と語り、一人で過激化する「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」への対応の難しさを改めて浮き彫りにした。(小川朝煕、村上喬亮)

男は千葉市緑区の家電修理業の男(26)。無許可で鉄製パイプ銃を製造し、自宅で所持したとして4月、千葉県警に武器等製造法違反(無許可製造)容疑などで逮捕され、5月に起訴された。
千葉南署の接見室で6月27日、警察官の立ち会いの下、記者の質問に答えた。山上被告が逮捕後、母親が多額の献金をした世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みを明かし、悪質寄付対策などが進んだことに「触発された」といい、「自分もできるんじゃないかと思った」と語った。
自民党派閥の「政治とカネ」の問題など社会に不満があったといい、「(中央)省庁を爆破することも想像した」と説明。「銃はネットを見て作った」と話した。
捜査関係者によると、手製銃は鉄パイプや合金、スイッチ、配線コードなどを組み立てたもので、鑑定で殺傷能力が確認された。
県警は家族から相談を受け、別の事件で男の自宅を捜索し、手製銃を発見した。男は、「不満を持つ国民の一人としての意思表示で、理解を得られると思った」とも述べた。

安倍氏の事件後、警察はローン・オフェンダーへの対策を強化した。だが、昨年4月には岸田首相が応援に入った和歌山市の演説会場で、爆発物を投げ込まれる事件が起きた。逮捕された男も単独の攻撃者だった。
これを受け、全国の警察本部は今年4月、刑事、生活安全、地域の各部が参加する連絡会議を設置。捜査や住民相談、地域巡回などで把握した事件の前兆と思われる情報を、部の垣根を越えて警備部門に集約する体制を新たに整えた。
銃対策も進んだ。警察庁は銃や爆発物の製造に関する情報収集にAI(人工知能)を用いた検索システムを導入。今年6月には、手製銃や猟銃の規制を強化する改正銃刀法が成立し、ネット上で銃の不法所持をあおるような行為が罰則付きで禁止された。
ドローン活用 警護「高度化」

警察庁は事件翌月の2022年8月、要人警護のあり方を定めた「警護要則」を改正。都道府県警の警護計画案を事前審査する制度を導入した。これまでに約6300件を審査し、うち約4800件で修正を指示した。要人を守る警護員は全国で300人以上増員した。
警戒用のドローンも全国に配備。警視庁は都知事選の期間中、滞空時間の長い「有線ドローン」やAIで聴衆の不審な動きを検知するシステムをそれぞれ選挙警備で初めて使用した。警察官の対応力向上も急いでいる。北海道警が5月に札幌市で行った訓練では、刑事や地域警察官ら約90人が金属探知機で所持品を確認する手順を学んでいた。
警察庁の露木康浩長官は今月4日の定例記者会見で、「日々得られる教訓を踏まえ、警護の高度化を図っていきたい」と述べた。
テロ対策や警護に詳しい公共政策調査会の板橋功・研究センター長の話「ローン・オフェンダーを察知するのは非常に難しい。事件の前兆と思われる情報の収集には、市民のプライバシーへの配慮が求められる。選挙の警備も警察の介入は本来、最低限が望ましく、政党や陣営側の自主警備が原則だ。一方、警護対象者を守るのは警察になる。警護計画案を審査する警察庁は、地域情勢に精通した都道府県警と密に連携することが重要だ」
献花の列 元首相悼む

安倍元首相が銃撃された奈良市の事件現場付近には8日、約2000人が献花に訪れ、故人を悼んだ=写真、前田尚紀撮影=。
近鉄大和西大寺駅前の歩道に設置された献花台では、安倍氏をしのぶ人たちが手を合わせ、花を供えた。現場はガードレールが撤去され、横断歩道が整備されるなどし、風景は様変わりした。奈良市の無職福山和明さん(74)は「事件を後世に伝えるため、献花台の設置は続けてほしい」と話した。

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