交通事故リスク減らせるか 生活道路の法定速度60キロから30キロへの引き下げ閣議決定

中央線や複数の車線がない一般道路の法定速度について、令和8年9月をめどに現行の時速60キロから30キロに引き下げる改正道交法施行令が23日、閣議決定された。地域住民に身近な「生活道路」は子供や高齢者が多く利用する一方、幅員が狭く車も多く通ることから歩行者が巻き込まれる事故が相次いでいる。引き下げにより、事故抑止を図るのが狙いだ。
見通し悪い交差点
「よくプールに行っていて、まだまだ元気だった。本当に無念」
6月7日、東京都豊島区駒込の住宅街の交差点で発生した軽自動車との衝突事故で母の村岸正子さん(84)を亡くした長男の恭行さん(59)は、悔しさを吐露した。
事故は6月7日午前11時ごろ、幅員約2メートルの狭い道路で発生。正子さんは自転車でスイミングセンターから自宅方面へ向かう途中、左手から進行してきた荷物配送の軽バンと衝突して下敷きになり、約20メートル引きずられて死亡した。
現場の交差点は住宅街にあり、行き交う車は1時間に5台ほどと決して多くないが、塀や電信柱に囲まれ見通しは悪い。交差点では一時停止しながら少しずつ進む車もあったが、スピードを落とすだけで止まらずに進む車もあった。
近所に住む人は「車がスピードを出しすぎていたから、大きな事故になったのでは」と話す。
最高速度30キロ制限
生活道路を巡っては、埼玉県川口市の市道で平成18年9月、保育園児の列に車が突っ込み、児童ら21人が死傷する事故が起きた。現場は住宅街の一角で、道路に速度規制はなかった。事故を受けて同市と県警は、一部の生活道路で時速30キロの速度規制を実施した。
警察庁も23年、指定エリアの速度を30キロに規制する「ゾーン30」の整備を各都道府県警に指示。令和4年3月末までに全国に整備された4187カ所で整備前と整備後の1年間の死亡・重傷事故件数を累計で比較すると、全体の件数は29%、歩行者や自転車の事故も26%減少した。
近年では、路面を盛り上げるなどスピードが出せないようにする構造を組み合わせた「ゾーン30プラス」も設けられている。
一般道路は現行、上限が60キロだが、実際には20キロから80キロまでの速度規制標識で細かく制限が行われている。自動車と歩行者が衝突した事故の場合、自動車の速度が時速30キロを超えると、歩行者の致死率が急激に上昇するというデータもある。
警察庁によると、昨年の交通事故件数は30万7930件で、このうち幅員5・5メートル未満の道路で起きた事故は7万3607件。発生率は23・9%で、ほぼ横ばいで推移している。
警察庁は中央分離帯やラバーポール、中央線などで往路と復路が分離されていない幅5・5メートル未満程度の生活道路について、上限速度を30キロに引き下げる道交法施行令の改正案をまとめ、令和8年9月の施行を目指す。法定速度のため標識を設置せずに速度を規制することになり、運転手への周知が課題となる。
周知と物理的対策を
交通心理学に詳しい大阪大学大学院の中井宏准教授は「法定速度を下げるという宣言だけでは有効とはいえず、どれだけ周知できるかが重要だ」と指摘する。
そのために、車がいつどこを走ったかという走行履歴や加速度、進行方向などの挙動履歴を収集できるシステム「ETC2・0」の活用を推進すると同時に、「道路によってはカラーポールや道路に色を付けるなどの物理的な対策も取るべき」と話した。(橋本愛、堀川玲)

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