東京都北部の閑静な住宅街で昨秋から、台湾メーカーの「メリダ」やイタリア製の「ビアンキ」など、海外メーカーの高級自転車が盗まれる被害が相次いだ。警視庁が盗難に関与したとして逮捕したのはベトナム国籍の男2人。自転車を盗むために来日し、〝仕入れ〟が終われば帰国、ネットオークションで転売していた。容疑者は調べにこう語っていた。「日本は簡単に盗めた」-。
盗んだ自転車に乗って
7月9日早朝、2台の自転車が東京都豊島区の都電沿いの住宅地を走っていた。いずれも高級ブランドで、黒とピンクの車体が輝く。アパートに到着すると、乗っていた外国人の男2人が降りた。そこに迫ったのが警視庁の捜査員だ。逮捕状を見せられた男らはうつむいた。
豊島区、北区、文京区の各区では、昨年10月から高級自転車約70件(被害総額計約400万円相当)が盗まれる被害が相次いでいた。
警視庁捜査3課は、防犯カメラ画像の追跡から、いずれもベトナム国籍のブー・クアン・クエン容疑者(33)、ブイ・ズイ・コン容疑者(31)が関与している疑いがあると判断。約10カ月の捜査を経て、1件についての窃盗容疑で逮捕状をとり、待ち構えていた。このとき2人が捜査員の前に乗ってきたのも、直前に盗んだ自転車だった。
「泥棒の作業所」
逮捕時に2人がやってきたアパートは、「泥棒の作業所だった」(捜査幹部)。盗んできた自転車をこの部屋で解体、箱詰めし、ベトナムへ空輸していたという。室内からは工具や剥がされた防犯シールが見つかった。
7月9日に逮捕された両容疑者の逮捕容疑は1週間前の2日、豊島区の男性会社員(34)方から高級自転車2台を盗んだとするもの。被害品のうち、メリダ製の自転車は男性が妻から誕生日にプレゼントされた愛車だった。
「許せない。取り返してほしい」。男性は捜査員にこう訴えたという。捜査員が踏み込んだアパートの部屋には、1台だけ解体されずに残った男性の自転車があり、間一髪で取り戻すことができた。
「観光」の目的は
捜査関係者らによると、両容疑者は普段、ベトナムで生活。数カ月前から十数回にわたり、自転車を盗むために来日していた。日本で根城にしていたのは、豊島区のベトナム系雑貨店。ブー容疑者はこの店を拠点に日本で商品を買い付け、ベトナムへ輸出することを生業にしていた。
「当初はまじめに働いていた」(捜査関係者)ブー容疑者だが、日本の街を歩くうちに変化が芽生えたという。「日本には、いたるところに高級自転車がある」。同郷で自身を「アニキ」と仰ぐブイ容疑者とともに、〝仕入れ〟に精を出す日々が始まった。
「数えきれないほど盗んだ」とブイ容疑者。毎回、観光ビザで4~8日ほど滞在して3~6台を〝ノルマ〟に夜の街を物色、盗んだ自転車はそのまま乗ってアパートに持ち帰った。箱詰めされた自転車は出国時に同じ便に乗せ、ベトナムへ運んだ。
現地に持ち込んだ自転車は、インターネットオークションで転売。ブー容疑者は調べに「スポーツタイプの自転車はベトナムでも人気があり、高く売れる」と語ったという。
今年1~6月の都内の自転車の盗難件数は824件。昨年の同時期(810件)、4年の同時期(657件)から増加傾向だ。捜査幹部は盗難対策として「ある程度値が張っても頑丈なワイヤ錠を使ったり、屋内に止めるなどしてほしい」と話している。(内田優作)