兵庫県の斎藤元彦知事の疑惑が文書で告発された問題で、斎藤氏が告発者を処分した対応への釈明に追われている。告発文書に「信じるに足る理由がなかった」ため、公益通報の対象外と判断したと強調。告発者が「噂話を集めて作成した」と認めたことを根拠として主張したが、詳細なやり取りを問われると、「どこまで説明できるか持ち帰って検討する」と繰り返した。今後、再説明するとみられるが、「アンフェアな説明だ」との指摘が上がっている。
今月7日の定例知事会見。斎藤氏は、告発文書を作成した元県西播磨県民局長の男性(60)が、県の聴取に「噂話を集めて作成した」と認めたとし、こう強調した。「本来なら供述の内容は差し控えるが、問題の根幹だと考え、一定お話しさせていただいた」
ところが、男性が「噂話を集めた」と話した経緯や、県側との詳細なやりとりについて報道陣から説明を求められると、「持ち帰って検討する」「どこまで開示するかは改めて説明したい」と回答を避け続けた。
男性が文書を報道機関や県議らに配ったのは3月12日。斎藤氏は同20日に文書の存在を把握し、翌21日には幹部らとの対応会議で、作成者の特定を含めた内部調査を指示した。
斎藤氏は疑惑が記載された当事者であることから、「文書の内容が事実と異なる」と判断したと説明。さらに、同じく文書で名前が挙がった片山安孝副知事(7月末に退職)らによる3月25日の聞き取りに、男性が「噂話を集めた」と述べたとする。
公益通報者保護法では報道機関などへの外部通報には、通報内容が違法行為だと「信ずるに足りる相当な理由(真実相当性)」が必要と定められている。自身の認識と男性の供述から告発には真実相当性がなく、公益通報にはあたらないというのが斎藤氏の主張だ。
ただ、公益通報制度に詳しい淑徳大の日野勝吾教授は、真実相当性について「どこまで通報者側に求めるかはケース・バイ・ケースだ」と指摘。「今回の文書は抽象的な点もある一方、具体的で細かな内容も含まれており、初めの段階で『外部通報に当たらない』と断定するのは難しいのではないか」と斎藤氏の対応に疑問を投げかける。
さらに、「文書の存在を知った翌日に『犯人捜し』を始めているのは問題で、告発された当事者による上下関係がある中での聞き取りも公平性に欠ける」とする。
一方、「噂話を集めた」と認めたとされる男性の供述内容についても疑義が生じている。
男性は4月1日に報道機関にあてた反論文書で、聴取でのやり取りは「『告発文は1人で作成した。ほかに関係者はいない』と伝えたことのみ」と記していた。
男性は死亡しており、今後反論することは不可能で、斎藤氏は聴取時の録音記録など客観的なデータで、「噂話」供述が真実であると証明する必要に迫られそうだ。
日野氏は、今月7日の斎藤氏の説明について「第三者機関の調査結果などが出ていない段階で、通報者の言動を持ち出すのはアンフェアだ」と指摘。「知事自身が噂話との供述を理由に公益通報にあたらないと明言している以上、真実相当性を否定した理由を裏付ける部分は具体的に開示し、説明する責務がある」と話している。(地主明世)