〈〈追及・兵庫県〉「足りん。4億にせえ」1億円だった支援予算を号泣副知事のひと声で増額、斎藤知事は「補正予算はキリのいい数字のほうが打ち出しとしていい」と予算増の根拠ゼロ。阪神・オリックス優勝祝賀パレードの裏でなにが…〉から続く
兵庫県の斎藤元彦知事や側近によるパワハラやたかり、公金不正使用疑惑。県議会の調査委員会(百条委)のアンケートに県職員が次々と「私も見聞きした」と証言した。今年3月に告発文書で疑惑を指摘した後、処分を受け自死した元西播磨県民局長Aさん(60)のことを斎藤知事は「噂話を集めて書いた」と主張しているが、その根拠はいまだに明らかにしないままだ。
金融機関を対象にしたパレードの寄付金集めを産業労働部が主導?8月19日の兵庫県議会産業労働委員会で説明した県の産業労働部長」
アンケートに6711人が回答、実名も300人超
百条委のアンケートは7月31日~8月14日に約9700人の県の全職員に対し行なわれた。Aさんが告発した7つの疑惑を知っているかを問う内容だ。県関係者は 「対象者の69%の6711人が回答しました。これは想定をはるかに超える数で、知事の行動を問題視する職員がこれほどいるということでしょう。匿名でも構わないのに300人超が実名で答えており、知事周辺からの報復も恐れずに証言しようという人も多いようです」と話す。
8月5日朝までに集まった4568人分の「中間報告」が19日にまとまると、すぐに複数のメディアが内容を報じた。
「Aさんの告発文書にはパワハラの一例として、『県のイベントで公用車から降りて20m歩かされたことに知事が怒って職員を怒鳴り散らした』というものがあり、これはアンケート前から事実と確認されていました。ほかにも、知事を出迎えた職員にキレ散らかし、エレベーターのボタンを押すために待機していた女性職員が恐怖でボタンをうまく押せなくなった、との目撃談もありましたが、アンケートにはほかにもこうした話が多数、記載されています。アンケートは8月23日の次回百条委員会で正式に公表される見通しです」(県関係者)
報じられたアンケートの回答によると、斎藤知事は「瞬間湯沸かし器」「暴君」と呼ばれていたという。例えば、イベント候補地を訪れた際にエレベーターに乗り損ねて激高、職員に「お前はエレベーターのボタンも押せないのか」とりつけたという。また、知事はエレベーターで待たされると機嫌を損ねるため、県庁には普段から“知事が来るまでエレベーターの扉を開けておく係”が配置されていたという。
公用車での移動中には後部座席からカーナビをのぞき込んで、到着が遅れそうになると怒って助手席のシートを後ろから蹴った、との情報も。こうしたパワハラは、経験したり見たりして「実際に知っている」と答えた人だけで59人もおり、聞いたことがあるという人は1691人に上っている。
企業や自治体から贈答品を受け取っているとの疑惑についても「実際に知っている」と43人が回答。伝え聞いたという人も903人いる。この疑惑も、知事側近の産業労働部長がコーヒーメーカーを受け取ったことで兵庫県警からも事情聴取されており、一部は事実であることが明らかになっている。
多くの職員がAさんの告発文書は嘘ではないと声を上げた
これだけではない。Aさんは告発文書に、昨秋のプロ野球阪神・オリックスの優勝祝賀パレードの資金集めのため、当時の片山安孝副知事が中心になって県内の金融機関に補助金を増額する見返りに寄付をするよう求めたとの情報があることや、斎藤知事が初当選した2021年の知事選挙で県幹部が事前運動していたとの疑惑も記していた。事実なら背任や公職選挙法違反罪にも抵触しかねない深刻な問題なだけに情報を知る者は限られているとみられていたが、これらも直接、間接的に知っているとの回答が多くあるという。
県関係者は「百条委で証言してもいい」と言っている職員も多数おり、より詳細な証言が今後出てくる可能性があります」と話している。数多くの部下職員から指弾された斎藤知事は、8月20日の記者会見で受け止めを聞かれると「8月23日に(アンケート集計結果が)正式に発表されるとうかがっています。現時点で内容を把握してませんからコメントを差し控えたい」とかわした。
エレベーター前でキレたことはないのかと詳細を問われると「そういったことをした認識はないと思っています」と言いつつ「仕事ですから、やっぱり厳しく指導するということは、良い業務、サービスを県民のみなさんに提供していく以上、必要だと思っています」とも述べた。重要なのは、これだけ多くの職員が「Aさんの告発文書は嘘ではない」と声を上げたことだ。
斎藤知事は、Aさんが県当局の聴取に「噂話を集めて当該文書を作成し、配布したということを認めた」と8月7日の記者会見で言明した。さらに、「(告発が真実だと)信じるに足る相当な理由が存在しない」と付け加え、Aさんを公益通報者とみなさず処分したことは正しかったと主張している。
だがAさんは生前、告発文書の内容を精査してほしいと県に求め、事情聴取自体も県が実施したと主張する時期には受けていないと書き残している。Aさんの具体的な供述内容の開示を求められた斎藤知事は8月7日の会見で「公開できるか、どこまでできるかも含めて、対応を検討したい」と答えている。
しかし、8月20日の会見では「情報公開条例に基づいて詳細な人事関係のやり取り等をこの場で提示するということは難しい。ただ、裏付けとなる調査記録は確実に存在します」と述べ開示を拒んだ。「噂話を集めた」とする部分だけを口にしたことについては「それは、今回の公益通報と懲戒処分に関して、我々としては『信じるに足る理由が存在しない』ことを説明するために、そこはキーとなるところなので、時系列の中で説明した」と説明。知事に都合の良い部分だけを“つまみ食い”した説明を正当化している。
一方、公金支出の正当性が問われる事態となった優勝祝賀パレード問題は、アンケートとは別に県当局の説明によって疑惑が一層深まっている。この問題は、コロナ禍などで資金繰りに困り無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)を受けた中小事業者に対して、金融機関が支援すれば1件当たり最高10万円の補助金が支給される県の「中小企業経営改善・成長力強化支援事業」が舞台になっている。県側がこの補助金をつけた金融機関に、パレードの協賛金をキックバックするよう求めたというのが疑惑の柱だ。
「補助金を出している産業労働部が寄付金集めをするというのは…」
昨秋、所管の産業労働部地域経済課と財政課は補正予算の算定で、総計1000の事業者に金融機関が支援をすることを見込み、1件当たり10万円ずつ、計1億円を計上する計画を立てた。ところが片山副知事が「これじゃ足りん。4億にせえ」と増額を指示。これを受けて産業労働部が3億7500万円に増額した事業説明書を作り直したところ、今度は斎藤知事が「まるく」4億円にしろとさらに増額を要求し、その通りに予算が付いている(♯5、♯8)。
産業労働部の説明と、丸尾牧県議が情報公開で開示を受けた資料の分析によると、問題の補助金は、20の金融機関に計3億9995万円の交付決定が行われている。うち計3億5565万円の交付先となっている13金融機関がパレードに協賛金を出しており、その額は1金融機関当たり1100万~4900万円とみられている。斎藤知事はこれまで「(補助金事業は)パレードの寄付集めとは別の事業としてやってますので、それぞれ適切な対応をしていると私は認識している」と説明し、二つの事業は分離されていると強調してきた。
ところが8月19日の県議会の産業労働委員会で「金融機関を対象にしたパレードの寄付金集めを産業労働部がしなかったか」との丸尾県議の質問に同部総務課長は、「産業労働部からは約30社に(寄付金を)協賛依頼文書で企業に依頼しております。金融機関はそのうち3社」と答弁。同部の別の幹部は、この3金融機関にはいずれも補助金の交付が決まっていることも認めた。「補助金を出す部署であり、金融機関の監督も担う産業労働部が、“寄付金を寄越せ”と金融機関に求めることが問題だとわからないのか」と、県関係者は異常さを指摘する。
産業労働部は「寄付金集めは当初、大阪府と兵庫県と経済団体で実行委員会を作り『兵庫県につきましても、全庁各部で積極的にお願いしてください』ということだった。われわれとしても積極的にお願いに回った」と、通常の業務であったかのように委員会で説明したが、これを説明したのは前述のコーヒーメーカーを受領した部長である。
だが「補助金を出している産業労働部が寄付金集めをするというのは道義的に許されないのではないか」と丸尾議員に突っ込まれると、「批判を招くことがあったということはしっかりと受け止めて今後に生かしたい」と釈明に追い込まれた。“批判を招く”どころではなく、補助金問題への視線はますます厳しくなっている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班