夏休みも終盤。新学期が近づくにつれ、憂鬱な気分になる子供もいるだろう。さまざまな理由で不登校になる小中学生が増える中、「メタバース(仮想空間)」を使ったオンラインフリースクールが新たな選択肢として注目されている。通える距離にフリースクールがなかったり、外出が困難だったりする子供らにとっては、自宅にいながら社会とつながることができる新たな居場所として定着しつつあるという。
アバターで600人「登校」
パソコンモニターに映された仮想空間の授業風景は、ゲーム画面のようだ。メタバースのフリースクールには、アバター(分身)と呼ばれるキャラクターを操作しながら参加する。画面上の集まりに加わると、ちょうどスタッフがキャラクターたちに「次の週の目標をここで宣言しよう」と声をかけていた。
キャラクターを操作する子供たちは「早起きを頑張る」「(自作イラストの作画)作業を進める」など、自分たちが決めた目標をそれぞれチャットを通じて打ち込む。授業はそんなふうに進んでいた。
オンラインフリースクール「SOZOWスクール」は昨年11月に本格始動。全国の小学4年生から中学生まで約600人が在籍している。
学校連想なら「拒絶」
昨秋入会した大阪市の中学2年の男子生徒(14)は平日の多くをこの空間で過ごす。好きなゲームなどを語り合う友達もでき、「SOZOWがなかったら今、自分はここにいなかったかもしれない」と話す。
生徒は小学5年のとき、学校の休み時間に騒がしい同級生を注意したことがきっかけで友人との関係が悪化し、学校への足が遠のいた。
生徒の母親(46)は「学校を連想するものはすべて拒絶し、制服も着られなかった」と振り返る。焦りは今もあるが「学校以外に子供の居場所があればいい。学校に通うことがゴールじゃない」と思えるようになったという。
「子の興味伸ばす環境を」
SOZOWでは、英語や数学といった教科学習だけでなく、プログラミングや投資、人気ゲーム「マインクラフト」を使った授業など、多様なプログラムを準備。子供たち自身が興味のある授業を選択し、カリキュラムを組み立てる。
先の男子生徒は来年、受験生。学校への拒絶感や勉強の遅れから進路に不安はあるという。SOZOWは高等部も開校しており、生徒も「進路の候補に入れたい」と話した。
SOZOW代表取締役の小助川将(こすけがわまさし)さんは「子供が興味のあることを伸ばしていける環境をつくることが大事だ。不登校の児童生徒はこれからも増えると思うが、学校以外にも学びの選択肢があることを知ってほしい」と話していた。
9月1日はSOSに注意
内閣府のまとめによると、18歳以下の自殺者が年間で一番多い日は「9月1日」。平成27年版自殺対策白書で、昭和47~平成25年の42年間で18歳以下の自殺者を日付別にまとめたところ、夏休みが終わり、新学期が始まる学校が多い9月1日が累計131人で最多だった。
不登校に詳しいジャーナリストの石井しこうさんは「学校再開のタイミングは子供たちも不安になる。夏休み明けは特に恐怖を感じやすい」と話す。現在は8月下旬に夏休み明けとなるケースもあるが、新学期が近づくにつれ、体調不良や情緒不安定になったり、宿題が手につかなかったりする様子があれば、注意が必要だという。
一方、不登校の児童生徒数は増加傾向にあり、昨秋に文部科学省が公表した令和4年度調査によると不登校の小中学生は29万9048人(前年度比5万4108人増)と過去最多を更新。学校にいかない児童生徒たちに対する多様な受け皿も求められている。
「悲観しなくていい」
石井さんはオンラインフリースクールの試みについて「小中学校版の通信制高校ともいえる取り組み。心理的、物理的にも通いやすい。つながりがない不登校児の受け皿になりうるのでは」とみる。
自身も中学時代に不登校だったという石井さん。かつては「これで人生が終わった」と悲観した時期もあったという。
「いま、学校に通えていない人も不安だろう。でも、かつての不登校児たちの多くは普通のおじさん、おばさんになっている。彼らには『先のことはそんなに心配しなくていいよ』と声をかけてあげたい」と話した。(木ノ下めぐみ)