勤務中の「タバコ」はアリ?ナシ? 禁煙宣言の市役所、市民向け屋外喫煙所に群がる職員

「市職員の勤務中禁煙」をうたう兵庫県の尼崎市役所で、敷地内にある喫煙所に市職員とみられる喫煙者が多数出入りしていると、禁煙に取り組む医師らでつくるNPO法人「日本タバコフリー学会」が抗議している。学会は今年5月、喫煙所廃止と勤務時間内禁煙の徹底を求める要望書を出したが、市側は喫煙所は市民も利用しているとして撤去しない意向だ。学会側は「市職員の勤務時間中の喫煙はさぼりタイムであり、税金の無駄遣い。市民用の喫煙所といいながら利用者の大半が市職員なのは欺瞞(ぎまん)だ」と反発している。
「処分できない」
8月中旬の午後4時すぎ、尼崎市役所の敷地内にある屋外喫煙所に、タバコを手にした女性がゆっくりと歩いて入っていった。タバコのほかに手荷物はない。続いて身軽な若い男性も。ともに職員だろうか。喫煙所からは白い煙が風に吹かれて立ち上っていった。
令和2年に全面施行された改正健康増進法では、官公庁は原則敷地内禁煙になった。尼崎市役所ではそれに先立つ平成28年7月に「尼崎市職員たばこ取り組み宣言」を発表。「勤務時間中は禁煙します」とうたい、積極姿勢を示してきた。
ただ、市役所の敷地内には同法施行後も市民向けとして屋外喫煙所を設置している。受動喫煙対策のとられた屋外喫煙所の設置は推奨はされていないものの、例外として認められているのだ。
市人事課に尋ねると、担当者は職員の喫煙があることを認めたうえで「喫煙所を見回って必要に応じて声をかけたりしているが、いたちごっこ。喫煙しても処分はできない」と話した。
喫煙所があるから…
学会による実態調査によると、喫煙所の利用者の8割近くが市職員だと疑われるという。
調査は今年4月19日午前8時45分から午後5時半に実施。喫煙所を訪れた人を観察、分類した。
昼食時間を除く利用者数は、延べ214人。このうち学会が市職員ではないかと認定したのは166人と77・6%を占め、次いで市民(16・8%)、議会関係者(5・6%)の順だったという。
調査では、荷物なしで庁舎から来て喫煙所に入り、その後庁舎に戻った人を「市役所職員」、議会棟から来て喫煙所に入り、その後議会棟に戻った人を「議会関係者」とみなした。それ以外のバッグやリュックを持っている人を「市民など」と分類し、人数を調べたという。
自身も尼崎市民で、医師でもある同学会の薗潤会長は「明らかに市職員による勤務時間内喫煙。喫煙所の存在自体が違反を生み出している」と指摘する。
要望書に対する、尼崎市の回答はこうだ。喫煙所については「分煙を目的に設置し、市民の方々にも利用いただいている」と撤去を否定。職員の喫煙については「機会をとらえて周知を行っている」とした。
尼崎市は、禁止区域内における路上喫煙禁止や吸い殻のポイ捨て禁止などを定めた条例を来年度から一部改正する方針で、過料の徴収など対策強化を検討。禁煙の方向性を強める施策を取ろうとしている。
条例改正を控えていることなどを踏まえ、人事課は7月中旬、あらためて職員に向けて勤務時間中の禁煙を求めたが、8月になっても現状は変わらず、喫煙所を利用する職員は後を絶たない。
実は、学会が市役所敷地内での市職員の喫煙状況を調査をしたのは今回が初めてではない。
平成27年7月の調査では、当時地下にあった職員専用喫煙所を勤務時間中に訪れた職員が延べ547人いたが、尼崎市職員たばこ取り組み宣言が出された翌年の29年にはほぼ半減。延べ291人になっていた。
今回の調査ではさらに減って延べ166人。当初と比べると約3割減だが、薗会長は「まだ吸っている人は多い。やはり市役所内の喫煙所はなくすべきだ。喫煙する市民には隣の公園にある屋外喫煙所を使ってもらったらよいのではないか」と指摘する。
トップの意識が重要
各地の自治体庁舎にも喫煙所は残っているのだろうか。産業医科大学の大和浩教授と姜英(きょうえい)講師(喫煙対策)が行った調査によると、喫煙所が置かれていない自治体庁舎は全体の約4割にとどまるという。
大和教授らは都道府県、県庁所在市、政令市、東京23区、中核市(候補市含む)計166団体を対象に、今年2月15日時点での屋外喫煙所の有無を調査。屋外喫煙所がないのは65団体(39・2%)だった。改正健康増進法の施行前(令和元年)の13・8%から施行の翌年、撤去が進み35・8%に増えたが、その後は伸び悩んでいるという。
自治体庁舎の喫煙所をなくすためには、何が必要なのか。屋外喫煙所を設置する101団体に、敷地内全面禁煙を達成するために必要な対策を複数回答で尋ねたところ、「上級職の意識(トップダウン)」が41・7%と最も多く、「職員は敷地外でも禁煙の合意形成」「職員への教育と情報提供」などと続いていた。
兵庫県川西市役所の場合は、勤務中禁煙が守らなければ処分対象になる。市では平成25年1月に勤務時間中の喫煙を禁止、令和元年7月から庁舎敷地内を禁煙としている。
実際、2~3年には、勤務時間中に喫煙した行為が職務命令違反、職務専念義務違反だとして男性職員3人を減給などの懲戒処分としたほか、管理監督責任のある上司3人を文書訓告としている。担当の職員課は「明確に禁止と通知も出している。今後も勤務時間中の喫煙が確認されれば処分対象になる」と話す。
大和教授は「屋外喫煙所の風下25メートルでタバコから発生するPM2・5が感知され、望まない受動喫煙が発生する。清掃業者の保護、タバコ離席による業務効率の低下を防止する敷地内禁煙を公務職場にも期待したい」と話した。(加納裕子)

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