能登地震 自衛隊支援終了へ 東日本上回る8カ月に 行政「出口」描けず支援長期化

1月の能登半島地震の被災地、石川県珠洲市で続いていた陸上自衛隊の入浴支援活動が31日で終了する。これにより約8カ月間に及んだ自衛隊の派遣も終了するが、派遣期間は東日本大震災の約半年間を上回った。活動が長引いた主な原因は水道の早期復旧が困難だったことだが、現地での取材を通じ、宿泊施設での代替措置など「出口戦略」を行政が描けていなかった実態も見えてきた。
珠洲市長「要請継続心苦しい」
「8月には南海トラフ巨大地震臨時情報が出て次の災害も懸念される。これ以上、国防を担う自衛隊への支援要請を継続するのは心苦しい」
珠洲市役所で8月22日、防衛省関係者と非公式に面会した泉谷満寿裕(ますひろ)市長は胸中をこう明かした。市側には9月末までに水道を復旧できる目途があった。泉谷市長の言葉には、それまでは要請を続けたい本音もにじむ。
1月1日の発生直後に現地入りした自衛隊は人命救助や物資輸送、道路復旧などの初期対応に当たった。その後、5月末までに給食支援、給水支援を終え、珠洲市以外では入浴支援も終了。最終的に同市内3カ所での入浴支援を残していた。
珠洲市内の水道復旧率は91・3%(8月22日時点)。人手不足もあり、倒壊家屋の撤去が進まず、地下の配水管を修復できないことが復旧を遅らせたという。
飲料水や生活用水は配ることができても、使用量の多い入浴は水道が復旧しない限り支援ニーズがある。市役所内では一時、入浴支援車などを持つ民間業者への支援要請も検討された。だが、「支援者自身の水を心配しなければならない状況」(市幹部)だったため、生活を自己完結できる自衛隊に頼らざるを得なかった。
南海トラフや「複合事態」懸念
一方、防衛省は6月ごろには撤収を視野に動き始めた。今回、完全復旧を待たずに支援終了に踏み切れるのは、支援拠点3カ所のうち2カ所で、地区内にある宿泊施設の浴場を被災者に開放する代替措置を取れるようになったことが大きい。
両施設には防衛省関係者が毎週訪れ、状況調査を重ねていた。当初の市の水道復旧計画では、両施設とも県や市が経営に関わる公的施設にも関わらず、一般家庭と同じ優先順になっていたという。
宝立(ほうりゅう)地区の「珠洲温泉のとじ荘」では使用後の温泉を排水する浄化システムが地震で壊れたため修理を急ぎ、7月下旬に営業を再開。蛸島地区の「珠洲ビーチホテル」は優先的に水道を復旧させ、8月25日から大浴場の開放にこぎつけた。杉浦稔彦総支配人は「県のテコ入れもあり、やっとここまで来られた」と安堵(あんど)する。
仮設住宅への入居が進み、8月に入って各拠点の利用者数は100人前後に減少していた。残る1カ所の若山地区は市の設置したシャワールームで代替することとし、8月末の支援終了へ目途が立ったという。
陸上自衛隊が保有する入浴装備20個前後のうち3個が珠洲市で展開されていた。8月8日に発表された南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」も後押しとなった。防衛省・自衛隊では近年、災害に乗じて他国が侵攻を企てる複合事態も想定する。
同省関係者は「支援要請がある限り対応するのが原則だが、自衛隊はファースト・イン、ファースト・アウト(迅速展開、迅速撤収)が重要であり、悩ましい」と話した。(市岡豊大)

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