長崎、熊本、鹿児島県の海岸で7月下旬以降、中国製とみられる箱入りのたばこが大量に漂着しているのが見つかった。貨物船の積み荷が流出した可能性があるが、「落とし主」はわかっていない。海洋汚染を招く恐れもあるため、地元の自治体や警察、海上保安部などが回収を急いでいる。(野平貴)
軽トラ2台分
五島灘に面した長崎市・外海地区の砂浜に8月下旬、赤や青、金色など様々なパッケージのたばこが打ち上げられていた。中国語の表記があり、未開封の新品とみられるが、海水を含んで変形しており、周囲には鼻を突くにおいが漂う。
「拾っても拾っても、まだ出てくる」。海岸の清掃活動に取り組む市民団体代表の熊川泰秀さん(65)は困惑した表情を浮かべ、拾い上げたたばこを次々とごみ袋に入れた。
外海地区の海岸で最初に見つかったのは8月中旬。団体は市に連絡した上で、これまでに1600箱以上を回収しているが、熊川さんは「まだ掃除していない海岸もあり、全体でどれだけあるのか見当もつかない」とため息をつく。
長崎税関などによると、たばこは中国製とみられ、7月下旬以降、鹿児島県薩摩川内市・ 甑 島や枕崎市、南大隅町などの海岸で相次いで見つかった。その後、熊本県・天草地方や長崎県の島原半島、朝鮮半島に近い同県・対馬まで南北約350キロにわたって確認されている。同税関監視部の岩崎健管理課長は「管内でこれほど大量のたばこが漂着したのは初めて」と驚く。
熊本県警牛深署(天草市)では、これまでに5000箱以上を集めた。鹿児島県指宿市も「軽トラック2台分を回収した」としている。長崎県の離島・五島市では約1500箱が確認されており、各地の警察や海保、地元住民らが回収して一般廃棄物として処分している。
積み荷が海にばらまかれた可能性
海洋ごみに詳しい藤枝繁・鹿児島大特任教授(漂着物学)は、単一の品が大量に流れ着いたことから、輸送中のコンテナが海に落ち、積み荷が海にばらまかれた可能性を指摘する。
同様の事例は過去にも起きている。2022年には日本海沿岸にロシア製とみられる注射器が大量に流れ着いた。海上輸送品の落下とみられている。漂着物学会誌の論文によると、06年には韓国・釜山近くを航行していた中国・天津発の貨物船からコンテナが落下し、インクカートリッジが流出。韓国の沿岸に18万個が漂着し、日本でも北海道から沖縄までの日本海側を中心に451個が見つかった。
ただ、今回のたばこについて荷主らからの届け出などはない。長崎海上保安部は流出被害の全体像を「数が多すぎて把握できていない」とするが、流出したたばこの箱は万単位に上る可能性もある。藤枝特任教授は「美観を損ねるだけでなく、散逸すると回収が困難になる」とした上で、「負担は大きいが、できる限り回収・処分してほしい」としている。
長崎税関は監視艇での警戒を強化し、長崎県の橘湾や天草灘周辺で海上に浮かんでいた約1000箱を回収した。箱の中に薬物などの異物が隠されていた痕跡はないが、同県資源循環推進課は「見つけた場合は、地元の自治体に連絡してほしい」と呼びかけている。