暗号化技術や秘匿性の高さから、犯罪の温床になっていると、かねて指摘されていた通信アプリ「テレグラム」の創業者が、フランス当局に逮捕された。日本でも「ルフィ」を名乗る男らが指示したとされる広域強盗事件で使われるなど、犯罪集団の連絡ツールとして広く利用されていることで知られる同アプリ。仏当局は本格捜査に乗り出したが、創業者の出身地であるロシアが激しく反発し、外交問題に発展するなどアプリ運営への影響はまだ見通せない。
テレグラム創業者で最高経営責任者(CEO)のパベル・ドゥーロフ氏は8月24日、アゼルバイジャンの首都バクーからプライベートジェットでパリ郊外の空港に到着したところを逮捕された。
パリ検察は「さまざまな犯罪にテレグラムが登場する」と指摘。性犯罪や人身売買、麻薬の密売などのやり取りに広範に利用されているにもかかわらず、捜査に協力しないドゥーロフ氏の姿勢を非難した。
テレグラムが普及したのは、高度な通信の暗号化技術によって外部への秘匿性を保持できるからだ。現在の利用者は世界で10億人に迫る勢いだ。
資金や技術がなくても暗号通信を事実上可能にするテレグラムのメリットは、当局の規制から逃れたい反政府運動の支持者らによって享受されてきた。
またロシアのウクライナ侵略後は、露軍が主要な通信手段に用いる一方、ウクライナ軍もテレグラムを通じてロシアへのサイバー攻撃を呼びかけるなどしている。
その高い秘匿性を犯罪集団が放っておくはずがなく、2013年のサービス開始以降、テロや薬物売買などに悪用され、日本では「ルフィ」と名乗る男らによる広域強盗事件でテレグラムが改めて話題になった。
暴力団や特殊詐欺グループの関係者の間では、もう何年も前から必須のツールとなっているのが実態で、大阪市で令和2年に発生した強盗致傷事件では犯人の少年が共犯者と「テレグラムを通じて知り合った」と供述するなど、国内でも悪用の裾野は拡大の一途を辿っているとみられる。
ある捜査幹部は「テレグラムの利用者にメッセージを消されると復元は困難。他の通信アプリに比べ、非常にやっかいなツールだ」と明かす。
ロイターによると、ロシアのラブロフ外相はドゥーロフ氏逮捕後の8月27日、フランスとの関係は「過去最悪」と強調。ロシアのペスコフ大統領報道官は記者会見で「ドゥーロフ氏への容疑を裏付ける重大な証拠がない限り、仏当局の対応は通信の自由を直接的に制限しようとする行為だ」と牽制(けんせい)した。
テレグラム側もX(旧ツイッター)で「プラットフォームを悪用されたからといって、プラットフォームや経営者に責任を負わすことはおかしい」と抗議。同社が提供する通信サービスは欧州連合(EU)の巨大IT規制「デジタルサービス法(DSA)」を順守しているとの声明をアップしている。
日本国内で被害が急拡大しているSNS型投資詐欺ではインスタグラムやLINEが被害者を投資に誘い込む入り口となっており、悪用が問題となる通信アプリはテレグラムに限らない。
ITジャーナリストの三上洋氏は「テレグラム側も犯罪利用を防ぐための手立てを考える必要があるが、秘匿性を提供するサービスでもある。プラットフォーム側にどこまで責任を負わせるかというのは難しい問題で、他の事業者も今回の逮捕には反発するのでは」と分析した。(藤木祥平)
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テレグラム 2013年、パベル・ドゥーロフ氏と兄によって開発された。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイに拠点がある。同社のサーバーに記録を残さない形で利用者同士での直接のやりとりが可能なほか、送受信したメッセージが一定時間経過後に自動で消える機能を備える。通信内容は暗号化されるため、外部から解読できず消去したやり取りの復元も困難とされる。
同社はホームページで「LINEや(米メタ社の対話アプリ)ワッツアップと比べてもより安全」と秘匿性の高さを売りにしており、世界の利用者は9億5千万人に上るという。