南海トラフ発生なら東京も甚大な被害か 津波で900人超死亡、臨時情報から1カ月

南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」が発表されて8日で1カ月。西日本での被害が注目されがちな南海トラフ地震だが、東京都内でも津波により島嶼部などの死者が900人以上と想定されるなど、東日本でも甚大な被害が生じる可能性があることはあまり知られていない。直接の被害だけでなく、首都の経済活動や生活にも、多大な影響が予想される。
首都直下地震より深刻な被害
宮崎県南部で震度6弱の地震が発生し、気象庁が南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震への注意を呼びかける臨時情報を出した8月8日。震源は宮崎県の日向灘だったが、東京・新宿の都庁も災害対策本部会議を緊急招集するなど緊張感に包まれた。
結局、地震活動などに特段の変化は観測されず呼びかけは1週間後の15日に解除されたが、都の担当者は「南海トラフ地震発生時に、都内でさまざまな被害が発生する可能性がある」と指摘する。
令和4年5月に都防災会議で示された報告書によると、南海トラフ地震による都内の最大震度の想定は6弱。ほとんどの地域が5強以下で「揺れによる被害はほぼ発生しない」とされる。
一方で甚大な被害が予想されるのは津波だ。都内の島嶼部では、各島に最大7~28メートル程度の津波が到達。海岸線近くを中心に約1200棟の建築物が全壊し、900人以上の死者が出るとの試算が示された。都の担当者も「首都直下地震発生時よりも津波被害は深刻になる可能性がある」と指摘する。
地震翌日まで輸送能力失う可能性
揺れによる被害がほぼ発生しないとはいえ、23区や多摩地域も混乱に陥る可能性がある。想定される震度では電気、ガス、水道への影響は考えにくいものの、揺れ次第では鉄道などが運行を停止。発生当日から翌日にかけて安全点検を実施せざるを得なくなり輸送能力を失う可能性が高い。
平成23年3月の東日本大震災では、国の推計で発生直後に都内で352万人が当日中に家に帰れなくなったとされる。いわゆる「帰宅困難者」の問題は南海トラフ地震発生時も生じる可能性が高く、エレベーターの閉じ込めも懸念される。
都内の状況が落ち着けば、被災地からの被災者受け入れが始まる。避難者向けの住宅や食料・日用品の確保、被災地支援など、首都に課せられる役割は大きく、インバウンド(訪日外国人客)への対応などにも追われることになる。
都は島嶼部の津波対策として、各島に津波避難タワーなどを整備。23区を中心とした帰宅困難者対策としては、行き場のない人を受け入れる一時滞在施設の確保を進めるが、必要想定66万人分の7割にとどまるなど対策は道半ばだ。
都の担当者は「いざというとき、日頃からの備えが自身や家族の命を守る。住んでいる地域の被害想定を確認してほしい」としている。(大泉晋之助)

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