「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん=当時(77)=に致死量の覚醒剤を飲ませ、殺害したとして、殺人罪などに問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判の初公判が12日に始まり、弁護側は冒頭陳述で「本当にこれは殺人事件で、最も疑われることが明らかな被告が犯人なのか。怪しいという理由だけで処罰してはならない」と訴えた。須藤被告は無罪を主張する一方、検察側は「財産目当ての完全犯罪をたくらんだ」と指摘している。
冒頭陳述で弁護側は、被告が知人の紹介で、平成29年12月に野崎さんと出会った場面を説明。野崎さんは会うなり帯付きの100万円の束を差し出し、「結婚してください」とプロポーズしたという。冗談だと思い、「毎月くれるならいいですよ」と応じた被告。その後に振り込みがあり、「本当にもらえるならいいかな」と翌30年2月に結婚したという。
検察側は、和歌山にあまり来ない被告に野崎さんが不満を募らせ、3月には離婚届を作成しており、そうした状況が殺害への動機だったと指摘したが、弁護側は「結婚の条件は田辺市に住まず、月100万円を渡すことで、野崎さんもそれに納得していた」として検察側の主張を否定した。
弁護側によると、被告は3月末に田辺市に転入し、運転免許を取得する目的もあって、約1カ月間は同居。その後に東京に戻り、自ら離婚を切り出したこともあったが、野崎さんに懇願され、事件の20日ほど前に再び和歌山に戻った。被告が東京にいる間は、野崎さんは別の複数の女性と過ごしていたという。
結婚生活について、野崎さんは性的機能が不全で、性交渉を望んで日々試みたが一度もできなかったなどと明かしたが、2人の関係については、「被告人質問で本人が語る」と述べるにとどめた。
その上で弁護側は、殺人の手段として覚醒剤を飲ませることは一般的ではなく、「誰かが殺すつもりで覚醒剤を飲ませた殺人事件だったのか」と事件性を疑問視。事件だったとしても、被告が犯人なのかを含め、「検察の立証に疑問が残るなら無罪を言い渡さなければならない。それが刑事裁判のルールだ」と裁判員らに呼びかけた。
野崎さんの遺産は約13億円といわれる。妻だった被告には相続権があるが、殺人罪などで刑に処せられた場合は欠格事由に該当し、相続人となることができない。
起訴状によると、平成30年5月24日、殺意を持って何らかの方法で野崎さんに致死量の覚醒剤を摂取させ、急性覚醒剤中毒により死亡させたとされる。