「鼻つまみ者」カメムシ、今秋も大発生するのか…青リンゴのような甘い香りがする個性的なタイプも

この秋も大発生するのか――。昨年秋から今春にかけて、街中のあちこちで見られ、強烈な臭いで人々を悩ませたカメムシ。「鼻つまみ者」とのイメージが強いが、同じ仲間には甘い香りがするタイプもいるという。臭いにはどんな秘密が隠されているのか。
えさ豊作で大量繁殖 街に侵入

家の窓や街灯、ベランダなどで、体長1.5センチほどの緑色の五角形の小さな虫を見かけた人も多いだろう。ツヤアオカメムシだ。モモやナシなどの果樹を食い荒らす「果樹カメムシ類」という病害虫に分類される。刺激を与えると、外敵から身を守るために腹側の臭腺という部位から悪臭の分泌液を出す。
外見がカメの甲羅に似ていることから「カメムシ」と言われるようになったが、臭いの強さから地域によって「 屁臭虫 」や「ヘコキムシ」などとも呼ばれる。英語では「stinkbug(嫌な臭いがする虫)」といい、海外でも嫌われ者というイメージが定着しているようだ。
その果樹カメムシ類が昨秋、住宅街などに大量に現れた。
50年以上カメムシを研究する京都大の藤崎憲治名誉教授(77)(昆虫生態学)によると、普段は山林に生息し、スギやヒノキの実をえさにしているが、昨年は花粉が増えて実が豊作だったという。藤崎さんは「越冬前に、えさを求めて果樹園に飛来したり、光に誘われて住宅街に侵入したりしてきた」と推測する。昨秋の大発生の影響で今秋も多くなる可能性があるという。
7割が嫌い「絶滅してほしい」の声も

カメムシは、分類学上「カメムシ亜目」に属し、世界に約4万5000種類、日本に約1400種の仲間がいる。カメムシに見えないタガメやトコジラミなども含まれ、いずれもストロー状の口を使って汁などを吸う。
果樹カメムシ類の場合、寿命は1年ほどで、8~9月に成虫になって越冬し、翌年7月頃に産卵して世代交代する。藤崎さんは「温暖化により暖かい気候を好むカメムシも多く生き残れるようになった」と話す。
都道府県は、果樹カメムシ類の発生状況に応じて警報や注意報を出す。農林水産省によると、警報・注意報は9月10日時点で過去10年間で最多の61件(38都府県)に上る。
「高校生172人に聞いて、カメムシが好きな人は1人しかいなかった」。そう話すのは伊丹市昆虫館(兵庫県伊丹市)の長島聖大学芸員(45)。カメムシの企画展に関連してアンケートしたところ、「カメムシが好き」と答えたのは1%にも満たなかった。嫌いは73%に上り、「絶滅してほしい」といった回答も。長島さんは「僕自身、高校時代にカメムシの大発生を見て大嫌いになったので、当然の反応だ」と話す。
青リンゴの香り

果樹カメムシ類の青臭さでマイナスイメージが強い中、「個性的な」カメムシも存在する。オオクモヘリカメムシは青リンゴのような香りで知られる。長島さんは「においをかぎながら味のないガムをかむと青リンゴの味が感じられる」と笑う。
人それぞれ臭いの感じ方は異なるが、タガメは香辛料系のスパイシーな香り、鮮やかな色彩で「日本で最も美しいカメムシ」とされるニシキキンカメムシは脂気が強くてくさいそうだ。
秋田県立大の野下浩二准教授(49)(化学生態学)によると、臭いには外敵からの防御の役割と、フェロモンで仲間を集めるなどの機能がある。実験で、臭い成分を吹きかけられたカマキリは逃げ出した。仲間同士では、害を与えない程度に成分を放つと考えられている。
野下准教授は「こうした成分を応用すれば、効果的な農薬を作れるかもしれない。カメムシに学ぶことは多い」と語る。

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