9月27日に投開票が行われる自民党総裁選は実質的にそのまま次の首相を決める選挙となるが、立候補者の中には「統一教会(旧統一教会/世界平和統一家庭連合。以下「統一教会」とする)」との関係が取り沙汰された議員も複数いることがわかっている。
自民党は2022年8月に、党国会議員に対し、統一教会との関係を調査しているが、ごく簡易的な自己申告制の点検で済ませており、すべての関係が明らかになったわけではなく、「中堅議員に対して教団イベントへの参加を指示していた大物議員」など、いまだに追及を逃れている議員も多い。
それぞれの候補者の統一教会との関係を再検証し、総理総裁として強い姿勢で臨むことができるのかみていこう。
統一教会が全面的に政界工作に乗り出し、特に自民党への選挙支援を推し進めたのは1986年の衆参同時選挙からとされている。
この選挙では自民党が圧勝したが、文鮮明教祖(2012年死去)は「60億円以上使った」と発言しており、当時は100人以上の「勝共推進議員」がいたとされる。
その後も統一教会は密かに政界工作を続けていたとされる。2017年に日本の統一教会関連団体トップが韓鶴子総裁に「以前、勝共連合の活動が活性化していた時と同じような、その当時は200名を超える議員たちがご父母様(文鮮明・韓鶴子夫妻)に侍(はべ)っていたのですが、その時と同じような雰囲気になっています」と報告するなど、自民党を中心とする国会議員への「侵食」が進んでいた。
だが、2022年7月に起こった安倍晋三元首相銃撃事件により状況が一変。事件の背景に統一教会と政治家の問題があったことを各メディアが報じた。自民党は同年8月、所属国会議員に対し自己申告制の点検を行い、379人中179人の議員に「何らかの接点」があったとし、121人の名前を公表した。
だが、発覚していなかったつながりや、現在もそれなりの関係を保っている議員もいると指摘されている。
統一教会内部では、今回の自民党総裁選を「教団の“摂理”にとってのターニングポイント」と捉えているという。
統一教会は解散命令を東京地裁に請求した岸田文雄首相を忌み嫌っており、次の総理総裁が教団に好意的な人物であれば組織への対応が変わると思っているようだ。
それだけに次の総理総裁の統一教会との関係や姿勢が問われる。改めて「点検」してみよう。
まず、教団に厳しい姿勢を取りそうなのが河野太郎デジタル相だ。
河野氏については一昨年、および04年に教団関連団体・平和統一聯合の創設大会に祝辞を送っていたことがわかっている。ただ、統一教会は各方面にアプローチをしており、河野氏のような有力政治家ならこのレベルの接点を持っていても不思議ではない。
むしろ河野氏は22年に消費者相として、霊感商法や被害者救済のために有識者検討会を設置するなど、統一教会に対し一貫して厳しい姿勢を取っている。
石破茂元幹事長は2012年と2015年に統一教会系メディア『世界日報』の月刊誌に、同社世界日報社長らとの座談会記事が掲載され、同社教団関連企業の元社長から10万円を受け取っている。
その他、地方創生相だった2015年6月には教団関連団体・世界戦略総合研究所の定例会において講演しているなど、これまでそれなりに接点を持ってきている。
ただ石破氏自身が2022年に「議員個人としても関わるべきではなく、党としても関係を断ち切るべきである」と明言しており、同様に統一教会へ厳しい対応を取るだろう。
茂木敏充幹事長については、統一教会信者が茂木氏のパーティー券を買っていたと報じられているほか、茂木氏の地元・栃木で自民県連副会長を務める県議会議員が教団フロント組織・世界平和連合の県連合会代表を務めていたことなどが取り沙汰されている。
それほど濃い接点があったわけではないが、22年8月には党幹事長として非常に緩い「自民党の内部点検」を実施した責任者であり、統一教会に対して厳しい姿勢を貫くかどうかは疑問が残る。
林芳正官房長官には、地元山口県内の事務所において撮影された統一教会関係者との面会写真がリークされたことが記憶に新しい。
このリークは恐おそらく教団サイドによるものだ。他にも盛山正仁文科相や岸田首相自身についてもこうしたリークが行われており、岸田政権による解散命令請求への意趣返しとして、政権の中心人物である林氏もターゲットになったのだろう。このような手段で攻撃してきた教団に対し、林氏は厳しい姿勢をとるものと思われる。
加藤勝信元厚労相は2017年に地元の岡山県において、統一教会が開催した1万人集会に祝電を送り、秘書が代理出席するなどの接点がある。
ただ、あくまで地元の有権者対応の一環であり、深い関係があるようには思えない。
ただ、加藤氏は統一教会との深い関係が懸念される菅前首相と近く、その点では要注意と見ている。
上川陽子外相は以前法務大臣を務めていた際、麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚を含むオウム真理教元幹部への死刑を執行したことで知られている。
在任中の死刑執行を回避する法務大臣も多いなか、批判や報復を恐れず執行した姿勢から、統一教会問題にも強硬な姿勢を貫くと思われる。
11日に開かれた出馬会見において、「解散命令は宗教法人への死刑宣告と同じ」と主張している統一教会にも、同じように断固たる態度で臨むのかどうかを聞いた。上川氏は「自民党については統一教会との関係を一切断つということを岸田政権の下で決定している。その方針を徹底する」と回答している。
小泉進次郎元環境相は神奈川県連会長として、県内の支部長任命者に対し誓約書に署名させるなど、統一教会問題への取り組みはしている。
一方、小泉氏の後ろ盾である菅義偉元首相は、統一教会と深い関係にあるという疑惑が指摘されている。
菅氏との関係性から、小泉氏が後ろ向きの対応をする可能性がないとは言えない。
9月6日の出馬会見で直接小泉氏に質した。
「兵庫県知事による公益通報への対応が問題となっているが、総裁として内部通報に対して調査・検証するなど真摯(しんし)に対応するか。これまで神奈川県連会長として対応してきたか。小泉進次郎氏の後ろ盾とされる菅前首相に統一教会との関係が指摘されている。そのような中で総理総裁として統一教会へ厳しい姿勢で臨むことができるのか?」
小泉氏の回答は以下だ。
「今、鈴木エイトさんからは私が神奈川県連の会長という立場でやってきたこと、宣誓書を改めて書いてもらうとかそういったことについてすでにご理解いただいてる上でのご質問だと思います。そこの取り組みを何ら緩めることはありません。
そして今、菅(前)総理の話も出ましたけども、それはご本人にお尋ねいただきたいと思います。私としても今まで旧統一教会との関係はありません。そしてこれから自民党としても旧統一教会との関係を断って自民党を新しい形に作り直していきたいと考えています」
このように小泉氏は統一教会との関係断絶を明言している。
一方、私がもっとも警戒していた議員が、最初に出馬会見を開いた「コバホーク」こと小林鷹之・前経済安全保障相だ。
地元の千葉県において、統一教会のある地区幹部が懐に入り込んでいるという疑惑があったからだ。
小林氏はこの教団関係者からの依頼で2021年7月に千葉県八千代市で統一教会系のプロジェクトである「ピースロード」イベントに来賓参加し挨拶している。
2022年8月にはその内容を問題視する報道が出ている。イベントに参加していた人からの情報によるとこう発言していたというのだ。
「自民党は公明党と自公連立政権だから、こんなことを言ったら怒られますけど、公明党さんが勉強されている教えより、皆さんの勉強されている教えの方が上ですよ。自民党の国会議員として真の家庭運動を推進できるように皆さんと一緒に頑張ります」
もし仮にこの発言が事実だとすると統一教会の教義を知った上で、公明党の支持母体である創価学会よりも「教えが上」と発言していたことになる。
私が小林氏の総裁選出馬報道に際し、当該発言についてXにポストしたところ200万インプレッションを超える反響があった。
8月19日、私は衆議院議員会館で開かれた小林氏の出馬会見を取材した。会見参加申し込みをしていなかったので、会館入り口で小林議員の事務所に電話し許可を得た。
私のように統一教会との関係をただす記者も排除しなかったことは評価できる。
会見が始まる直前、推薦人となった小林氏を支援する国会議員約20人が集まったが、安倍派の若手議員が中心だった。
質疑応答ではアークタイムズの尾形聡彦氏が先述した私のポストを引いて、事実関係を確認した。すると小林氏は「今日、鈴木エイトさん後ろにいらっしゃいますけど、私も拝見させていただきました」と内容を把握しているとした上で、ピースロードにおける発言内容を否定した。
また、統一教会との間に金銭のやり取りも選挙支援の依頼をしたこともないと、関係を否定した。
ただ、統一教会は政治家からの依頼がなくとも勝手に支援しているケースもあるため注意が必要だ。
質疑応答の終盤、私も指名されたので、地元の支援者に統一教会地区幹部がいることについて、その認識があるか、またその状態で教団に対して厳しい対応をとれるのかを質問した。
小林氏は「厳しい対応を取ります! 岸田政権の岸田総理の方針を堅持します」と明言。ただし、地元における教団関係者との関わりについては、「後援会の方はかなりいらっしゃる。それぞれ私人でありプライバシーにも関わる。一人ひとりの思想信条を聞くことに限界がある点はご認識いただきたい」との回答にとどめた。
この回答からすると、小林氏の陣営に統一教会関係者が入り込んでいる可能性は否定しきれない。ただ、統一教会に「厳しい対応をとる」と断言しており、教団が求める対応をとる可能性は低い。
小林氏に近い筋の情報によると、地元の支援者のなかに統一教会関係者がいたことがわかり、関係を絶ったという。
小林氏の妻は2世問題に積極的に取り組む弁護士であり、小林氏の後援者にも消費者被害に真摯な取り組みを続ける法曹関係者がいることなどから、小林氏の発言や姿勢は信用していいように思う。
統一教会がアプローチを強めそうなのが、保守層からの人気が高い高市早苗・経済安全保障担当相だ。
高市氏は過去に統一教会との接点について報じられている。2001年3月に統一教会系の月刊誌に対談記事が掲載されたほか、19年3月に高市氏が開いた政治資金パーティーで教団関連団体がパーティー券を4万円分購入した疑いも報じられた。
SNSにおいても、統一教会信者が高市氏を推す投稿が散見される。前回の総裁選でも安倍元首相が支援するなど、思想信条が近いとされる高市氏に対し、地元・奈良県において統一教会関係者がアプローチしている形跡もある。ただ高市氏を支える地元の有力議員は統一教会の接近を警戒し、厳重なチェック体制を敷いているという。
その他、総裁選出馬が取り沙汰された議員についても、統一教会との関係や姿勢についてまとめておこう。
斎藤健経産相については、秘書が教団系の会合に出席したことがあると明らかにしている。かなり薄い接点であり、統一教会に甘い姿勢をとるとは考えにくい。
野田聖子前男女共同参画担当相に関しては、教団関連団体が共催した会議へ祝電を送ったことがあり、秘書が代理出席したことを明かしている。
だが統一教会を含む宗教右派「伝統的な価値観を重視する宗教団体」が自民党のジェンダー政策に影響を与えた可能性を指摘し「考え方が違う」と明言しており、統一教会とは相容れないだろう。
青山繁晴氏については統一教会との接点は判明していない。さまざまな情報を躊躇(ちゅうちょ)せず発言発信するタイプなので教団としてもアプローチしづらいのが実情だだろう。
このように、統一教会にとってはまさに四面楚歌であり、誰が総理総裁になっても逆風が続くと思われる。
統一教会はこれまで個々の政治家とのつながりを通じて体制保護を獲得してきたが、その戦略が成り立たなくなっているのが現状と言えるだろう。
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(やや日刊カルト新聞主筆 鈴木 エイト)