自民党の石破総裁が9月30日に会見を開き、10月27日に投開票の日程で衆議院総選挙を行う意向を表明しました。解散決断の裏側や石破政権の新たな閣僚人事について、日本テレビ政治部・官邸キャップの平本典昭記者が解説します。
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自民党の石破新総裁は、役員人事を正式に決定しました。副総裁に菅義偉氏、最高顧問には麻生太郎氏です。党4役には幹事長に森山裕氏。自民党の最高意思決定機関、総務会をまとめる総務会長に鈴木俊一氏。党の政策決定を仕切る政務調査会のトップ政調会長に小野寺五典氏。そして、選対委員長に小泉進次郎氏が決まりました。
また、10月1日に召集される臨時国会で首相に指名されたあと組閣に臨む石破新総裁ですが、起用される予定となっている閣僚人事では、19人のうち13人が初入閣となります。林官房長官は続投させるほか、外相に岩屋毅氏、財務相に加藤勝信氏、厚生労働相に福岡資麿氏、農林水産相に小里泰弘氏、経済産業相に武藤容治氏などを起用する方針です。
鈴江奈々キャスター
「日本テレビ・政治部官邸キャップの平本典昭記者に3つの疑問について聞きます。
1.異例の『人事拒否』…党内分断も
2.チーム石破『実務型』『在庫一掃』
3.解散表明…方針転換『舞台裏』
まず1つめ、『人事拒否』があったと聞かされていますが、それは異例のことだったんでしょうか?」
政治部官邸キャップ 平本典昭記者
「これは異例と言えます。チーム石破のメンバーですが、舞台裏で実は2人のキーマンが打診を拒否したことがわかっています。1人目は総裁選で戦った相手の1人、コバホークこと小林鷹之氏。若手の期待を背負って出馬した小林氏でしたが、石破総裁は選挙の公報戦略などを担う重要ポジション・広報本部長のポストを打診しましたが、小林さんは拒否したそうです。『自分ではなく、仲間にポストを譲りたい』という理由でした」
「もう1人は今回の人事で最注目だった人物で高市早苗氏です。石破総裁は自民党の最高意思決定機関のトップである総務会長ポストを打診しましたが、高市さんは拒否したそうです。高市さんは『幹事長のポストなら受ける』と言ったそうです。自民党のポストでいうと、幹事長は総裁に次ぐNo.2のポストで総務会長より『格上』ですので、高市氏は『もっと上のポストでないと受けないよ』と。これは言い換えれば、『石破政権には協力しない』というメッセージともいえます」
鈴江キャスター
「そうともとれるんですね」
平本記者
「そうとれると思います。高市氏は決選投票で争った相手で、安定した政権運営には高市氏の協力が不可欠でしたので、党内が『分断』されてしまったともいえます。あるベテラン議員は『党役員の人事でこれだけ断られたという記憶はない』と異例さを明かしています。裏を返しますと、石破氏の党内での『求心力の低さ』が早くも露呈された形ともいえます」
鈴江キャスター
「前途多難ともいえる状況ですか?」
平本記者
「まさにです」
鈴江キャスター
「そして2つめの疑問です。『チーム石破』について『実務型』『在庫一掃』という評価がもう出ているんですか?」
平本記者
「プラス評価では『実務型』といえると思います。チーム編成に石破総裁自身は、周辺にキーワードとして『継続と安定』をあげています。まず、継続ですが、石破氏は『岸田政権の継承』を掲げる中で、象徴は林官房長官の続投です。また、石破氏は官邸の経験がないので、『林さんの官邸経験を頼りにしている』と周辺に話しています」
「もう1つは安定です。この象徴は森山幹事長といえます。森山さんは経験、調整力に定評がありますから、党内基盤を安定させるために森山氏には早い時期から幹事長のお願いをしていたそうです」
鈴江キャスター
「『安定感』がある一方で、閣僚人事などを眺めてみますと、『刷新感』がなく、女性が少ないという声も聞かれますがどうなんでしょうか?」
平本記者
「そのあたりがマイナス評価として出てきている声だと思います。ある数字で分析したいと思います。自民党内にはまだ、閣僚経験がなくて順番でそろそろ自分かなという『待機組』と呼ばれる人がいます。今回、初入閣した人が13人いましたが、『待機組』はいったい何人いたと思いますか?」
鈴江キャスター
「そうですね…顔ぶれをみると半分以上は『待機組』ですか?」
平本記者
「普段はそれくらいが相場観なんですが、今回は13人中、なんと13人すべてがこの『待機組』だったんです。こうしたことが理由で女性閣僚は5人から2人に、また若手の抜てき登用も今回はなしとなりました。こういったことから、党内からは『在庫一掃内閣』という声も飛んでいます」
「もう1つ、今回は脱派閥の人事を断行できるかもポイントでした。派閥ごとにみると、無派閥が一番多くて9人。一方で比較的派閥の人数が多い旧茂木派、旧岸田派からはそれぞれ1人。これまで多かった『派閥均衡型』人事からは脱却したともいえます。ただ、これ総裁選の陣営別にみると、石破陣営の起用は8人と最も多かったんです。こうしたことから、『お友達内閣』とやゆする声は上がっています」
鈴江キャスター
「そして3つめ、30日に解散を公式に表明しましたが、舞台裏では何かあったんでしょうか?」
平本記者
「まず、石破総裁の解散に関する考え方は、以前は『本会議、そして予算委員会で論戦をして国民の審判を受ける』といっていました。総裁選で早い時期の解散を主張していたのは小泉氏で10月を主張していました。石破さんは逆にもう少し遅いタイミング、国会で予算委員会を行い、11月の解散を主張していました。石破氏は周辺に対して『予算委員会で議論をしないと、国民に選挙でいったい何を判断してもらうのか判断材料を提供できない』と話していました。それなのに、ここにきて10月の解散に方針を転換したわけです」
鈴江キャスター
「なぜその方針を転換したのでしょうか?」
平本記者
「これは、自民党内の『総裁選を行って支持率が下がらないうちに早く解散をすべき』という党内の声に押し戻されたと言えます。その筆頭格は幹事長の森山氏ですが、別の自民党幹部も『予算委員会なんてやったら政治とカネであるとか、旧統一教会のことばかり野党は追及してくるだろう。政策議論なんてできないんだから議論は避けるべき、早く解散すべき』と言っていました」
鈴江キャスター
「石破さんは野党からの議論も受けて立つというスタンスのように映っていたんですが、そこも変わったということでしょうか?」
平本記者
「そう野党からは見られていて、激しく反発が出ています。立憲民主党の野田佳彦代表は『与野党の論戦があって、国民に対して判断材料を提供してから信を問うと言っていたはずなのにもう解散の話をするというのは、私は不見識極まりないと、国会軽視だと思っています』と発言。その他にも、ある立憲幹部は『石破さんは総裁になった途端に筋を曲げて議論から逃げた』と。別の立憲幹部は『古い自民党を批判して当選したのに、すでに古い自民党に取り込まれている』といった批判も出ています」
「チーム石破は10月1日に本格スタートします。今、自民党内からでさえ『総裁になった途端に石破さんは変わったのでは』という声も聞きます。期待が失望に変わらぬよう、石破さんの良さはなんとか失わずにいてほしいと思います」