衆院選が15日に公示された。「政治とカネ」の問題が表に出ているが、ほかには何が争点になるだろうか。
本来は、外交・防衛や内政を議論すべきであるが、首相就任は今月1日、解散は8日後の9日、投開票は26日後の27日といずれも戦後最短だ。解散から投開票までの18日間も戦後2番目の短さだ。
選挙日程は、3年前の岸田文雄政権とほとんど同じだ。石破茂政権は、首相と同様に長らく「党内野党」だった「お友達」を重要閣僚に据えたが、官房長官は岸田政権から横滑りで、副大臣と政務官はほぼ岸田政権の居抜きである。こうしたことから政策もほとんど岸田政権を踏襲し、岸田政権の劣化コピーとも言われている。
4日の所信表明演説では、総裁選の公約をほぼ全面的に撤回した。その前に実施された世論調査で、内閣支持率は岸田政権の末期からは上昇したが、それでも政権発足直後では過去最低水準で、「ご祝儀」はなかった。その後、石破政権の変節が明らかになると支持率は下がっているとの調査もあり、焦った石破政権は、焦点を裏金問題にすり替えた。そこで、不記載だった12人を非公認とし、30人以上を比例重複なしとした。
この判断について「世論に迎合した」ともいわれるが、この場合の世論というのは非自民層なので、これで自民党に支持が戻るわけではない。この措置の結果、これまでは「自民単独で過半数割れ」が懸念されていたのが、「自民と公明党の与党で過半数割れ」も視野に入ってきているという。
そもそも検察の捜査で刑事処分がなされ、それを受けて党規約に基づき党として既に決定した処分について、新総裁が追加処分したというのは「一事不再理」の原則に反し不当だ。「ルールを守る」と強調する石破首相が自ら破っている。
また、選挙の争点を「政治とカネ」の問題に絞ることは、選挙戦術としてもまずい。野党は「処分は甘い」とさらに攻勢をかけてくるのは必至だ。
さらに、これまで党内野党に対しては寛容だった週刊誌などのメディアも、閣僚のスキャンダルを出し始めた。このため、ますます政策議論になりにくい状況だ。
実は、外交・防衛や内政を争点にするといっても、石破政権はブレブレでほとんど前言を撤回しているので話にならない。「憲法7条による解散は違憲の疑い」と言っていたが、解散してしまった。「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」や「北朝鮮との連絡事務所設置」などは所信表明演説では姿を消し、「原発ゼロ」や「選択的夫婦別姓導入」も後退し、「金融所得課税強化」もなくなった。
「最低賃金1500円」のように変えていないものもあるが、立憲民主党より左で、れいわ新選組並みの政策なので争点になりにくい。能登の災害に対する措置を予備費か補正予算にするかについても、現実に「補正予算なし」なので、ここも争点になりにくい。
結果的に「政治とカネ」や「スキャンダル」が争点になれば、自民党は防戦一方だろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)