オウム真理教に「牙」は残っているか 今も続く公安調査庁の検査、事件の教訓は

平成7年に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教。公安調査庁(公安庁)は今も後継団体に対する立ち入り検査を繰り返しているが、大きく報じられることは少なくなってきた。被害者側は「事件が風化してしまった証し」と憂慮するが、「将来の危険性は冷静に判断すべきだ」(検察OB)との声も。都心で6千人超の被害者を出した未曽有のテロから来年で30年。「牙」は果たして抜かれたのか。事件から得られた教訓とは何なのだろうか。
立ち入り計573回
10月2日から22日にかけて全国規模で実施された、オウムの後継団体「アレフ」などに対する立ち入り検査。団体規制法に基づき、滋賀県甲賀市の2施設とさいたま市内、東京都内の各施設の計4カ所に公安庁の職員らが入った。
同法は「無差別大量殺人行為を行った団体」を観察処分対象に指定し、立ち入り検査することを認めている。想定されている「団体」が、平成6年6月の松本サリン事件や7年3月の地下鉄サリン事件を起こしたオウムであることは言うまでもない。
オウムの関連団体に対する立ち入り検査は今年に入り28回行われ、14都道府県で延べ34カ所の施設が検査を受けた。元教祖の麻原彰晃元死刑囚=本名・松本智津夫、平成30年に死刑執行、執行当時(63)=の写真や説法を収録した教材を施設内で多数保管している事実が、度々確認されている。
立ち入りは平成12年以降、通算573回に上り、検査を受けた施設は19都道府県で延べ972カ所、実数でも137カ所に及ぶ。
公安庁関係者は「実際に信者と接すれば、国家への反抗心や麻原の教えに対する帰依の強さを今もひしひしと感じる」と語る。
「何もできない」「油断できない」
法務省公安課と外局の公安庁を所管官庁とする同法が制定されたのは平成11年。その2年前の9年には、オウムに対する破壊活動防止法(破防法)に基づく解散命令請求を公安審査委員会が「明白な危険性があるとまでは言えない」と棄却しており、オウムやその後継団体に法規制が及ばない状況となったことが背景にある。
公安庁の内情に詳しい元検察官は当時について「主要人物がほぼ全員逮捕され、多くの人が『オウムにはもう何もできない』と思うようになっていた」とする一方、「現場の公安調査官や公安警察官は『まだ油断できない』と言っていた」と振り返る。
サリン事件に加え、リンチ殺人や「温熱療法」と称して熱湯風呂に何度も入らせ死亡させるなどの組織犯罪を繰り返していたオウム。地下鉄サリン事件の2日後の7年3月22日、警視庁などが一斉強制捜査に踏み切り、5月までに麻原元死刑囚らを逮捕した後も、単発で事件を繰り返していた。
16年には、オウム元信者のグループのメンバー4人が、修行と称して竹刀で別の女性メンバーの背中をたたく集団暴行を行い死亡させたとして傷害致死の疑いで逮捕されている。
教祖がいた頃とは…
公安審は今年1月、オウムの後継団体の危険性を改めて認定し、8回目の観察処分期間の更新を認める決定をした。昨年3月からは、資産などの報告内容が不十分だなどとして、施設の使用や金品の受領を禁じる「再発防止処分」の対象にアレフを指定している。
オウムの後継団体はアレフのほか、「山田らの集団」「ひかりの輪」と3つに分裂。ただ、地下鉄サリン事件の時点で1万人を超えていた信者数は1650人(令和6年現在)となっており、元検察官は「麻原元死刑囚がいた頃と比べると、危険性の認定には疑問符がつく」と話す。
ここ数年、信者が悪質な犯罪に手を染めたとして起訴されるケースも減りつつある。
令和3年にはアレフの活動拠点として使う横浜市のマンションを住居用と偽って借りた女性が逮捕されたが、不起訴に。今年1月にはアレフの信者らを住まわせる目的を隠して名古屋市内のマンションを借りた信者らが詐欺の疑いで逮捕されたが、やはり不起訴となっている。
この元検察官は「狂信的集団の暴走を許した過ちの轍(てつ)を踏んではなるまい。ただ、将来の危険性は冷静に判断すべきだ。そこまで含めてこそオウム事件の教訓と言えるのだから」としている。

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