紀州のドン・ファン元妻に「無罪」判決…検察の誤算と裁判員に影響与えた“ストーリー”

検察側もまさか法廷に立った覚醒剤の密売人が、「氷砂糖だった」と証言するとは思わなかったのではないか。
2018年に「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77)に覚醒剤を飲ませ殺害したとして殺人罪に問われた元妻、須藤早貴被告(28)に対する判決公判が12日、和歌山地裁であった。地裁は<野崎さんが初めて覚醒剤を使用し、誤って致死量を摂取した可能性がないとは言い切れない>として無罪を言い渡した。検察側は無期懲役を求刑していた。
早貴被告の関与を裏付ける直接的な証拠はなく、検察側は「何らかの方法で飲ませた」とし、具体的な方法を示すことができなかった。元妻がどういう理由で覚醒剤を入手し、野崎さんに「どうやって飲ませたか」が、白黒をつける核心だった。
■密売人の「氷砂糖」と被告の「勃たなかった」が決め手
検察側は28人もの証人尋問を実施し、2人の密売人が出廷。早貴被告に直接ブツを手渡した男性が「4~5グラムの覚醒剤が入った封筒を渡し、10万~12万円受け取った」と証言したのに対し、電話で注文を受け、ブツを用意した別の密売人は「被告に売ったのは覚醒剤ではなく、砕いた氷砂糖3グラムだった。当時、覚醒剤を入手できる人脈はなかった」と異なる証言をした。2人は一緒に田辺市までブツを届けていた。
覚醒剤を購入しようとした理由について、元妻は11月の被告人質問で突然、「セックスの時に勃たなかったので、社長から『覚醒剤でも買ってきてくれないか』と頼まれた。渡した翌日、『使い物にならん。偽物や。もうおまえには頼まん』と言われた」と主張した。
早貴被告のスマホには「覚醒剤 死亡」「完全犯罪」といった検索履歴が残っていたが、致死量や覚醒剤を飲ませる具体的な方法を検索した履歴はなかった。
判決では<多額の遺産を相続できるなど殺害の動機になり得る事情はあった>としながらも、<携帯電話に「覚醒剤」や「完全犯罪」などの検索履歴があっても、殺害を計画していたとまでは推認できない><氷砂糖の可能性もあり、覚醒剤に間違いないとは認定できない><野崎さんが、覚醒剤を誤って過剰摂取していないとは言い切れない。このため犯罪の証明がない><被告が殺害したとするには合理的な疑いが残る>として無罪とした。裁判員を務めた20代の男性は「判決を出す上で悩みはなかった」と話した。
「合理的な疑いを入れるかどうかは主観的な判断なので、裁判官によって違う」と、弁護士の山口宏氏がこう続ける。
「裁判員の意見に沿う形で判決を出した可能性があります。密売人の1人が『氷砂糖』と証言したのは、検察にとって誤算だったはずです。被告人の『野崎さんに頼まれた』という主張も、裁判員はあり得ない話ではないと受け止めたのかもしれません。検察側は最後まで具体的な摂取方法を説明できなかった。検察側としては有力な状況証拠を用意できず、氷砂糖証言まで出たことから、裁判官も思い切れなかったのではないか」
検察が控訴して大阪高裁で審理となれば、次は裁判員裁判ではなくなる。
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日刊ゲンダイDIGITALでは「紀州のドン・ファンと元妻 最後の5カ月の真実」を長期連載。関連記事には貴重な記事や写真が満載だ。

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