トランプでもプーチンでもない…”右翼雑誌”編集長が安倍元首相に聞いた「各国首脳で一番馬が合った人物」とは

【花田】ぼくは自分が人の話を聞いて雑誌を作っている以上、人からの取材依頼もなるべく断らないようにしているつもりです。この間も、毎日新聞の吉井理記記者の取材を受けましたよ。
【梶原】〈保守層もソッポ? 岸田政権、不人気の正体 「リベラルと戦わない」「足りぬ伝える力」〉(毎日新聞デジタル版、2024年7月25日付)ですね。安倍元総理に比べて、岸田前総理の話が「面白くない」という花田さんのコメントが載っています。
【花田】実際、面白くないでしょう。見出しにならない。『Hanada』では岸田さんへの編集長インタビューを2回掲載しているけど、どうも面白くなかった。特に2回目は、1回目が面白くなかったからこちらもいろいろ工夫して、メガネをどこで作っているのかとか、理髪店のこととか聞いたりしたんだけど。
【梶原】ヘアモードキクチですよね、岸田さんの行ってる理髪店。
【花田】いくら揺さぶっても、面白い話が出てこないんだよね。原稿も見せるし、まずいところはカットしてくれればいいわけだから、と言うんだけれど。
【梶原】話がつまらないと、雑誌に登場してもらおうという気はなくなってしまう、と。
【花田】それはそうでしょう。つまらないものを読者に読ませたくないもの。
【梶原】総理在任時も、その後も多数登場している安倍元総理は話が面白かったってことですね。
【花田】話は抜群に面白いね。『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)にも書けなかったような話が、まだまだたくさんあったはずだから、年をとって、政界を引退した後にいろんな話が聞けるだろうと思っていたんだけれど。
例えば、各国首脳の中で誰と一番、ウマが合うかと言ったら、イギリスのボリス・ジョンソンだと言っていた。
ジョンソンが、安倍さんに「月に何回くらい、天皇陛下に会いに行くんだ?」と聞いてくるから「いや、年に数回ですよ」というと、「シンゾーはいいな、俺は毎週、エリザベス女王に報告に行かなきゃいけないんだ」と言ってたとか。
あるいはフィリピンのドゥテルテ大統領の自宅に呼ばれた時に、自宅の警備があまりに緩いのに驚いた安倍さんが「大丈夫なのか」と聞いたら、ドゥテルテが寝室に来いという。
ついていくと、ベッドカバーをばっと外した。機関銃がずらっと並んでいて、「一丁、プレゼントするから持っていけ」と押し付けられたとかね。
とんでもない話なんだけど、安倍さんはオフレコも含めてそういうエピソードをたくさん話してくれるから、面白い。
【梶原】安倍さんは「映画監督になりたかった」というだけあって、場面再現力が高いから、映像的に思い浮かぶように話してくれますね。岸田さんにもエピソードはあるはずなのに、なかなか出てきません。ゼレンスキーに必勝しゃもじを持ってった時の裏話とか……。
【花田】安倍政権は周囲の人たちも発信が多いし、話がうまくて文章も達者。例えばNSS(国家安全保障局)次長を務めた元外交官の兼原信克さんや、警察庁出身でNSS局長を務めた北村滋さん、経済担当の内閣参与だった本田悦朗さんらが、それぞれ安倍さんが外交の場面や政治的決断の際に立ち会ったエピソードを書いていますよ。どれも面白いでしょう。
【梶原】花田さんは安倍さんを応援していたと思いますが、その動機は「権力とお近づきになりたい」というような欲からではない。
【花田】ないねぇ。そんなことを思ったことは一度もない。
【梶原】西村康稔・萩生田光一・世耕弘成と安倍派3人衆がずらっと登場したこともありました(2023年7月号、2024年2月号)。これも、「この3人の中の誰かに安倍派のトップになってほしい」とかそういうことではないんですか。
【花田】3人を並べた雑誌の特集は見たことがないから、並んだら面白いと思って。もちろん、話を聞けばそれぞれいいところがあるから、読者に知ってもらいたいというのもあるし、本人たちにもプラスがあるかもしれないとは思うけど。持ち上げるとかそういう意識はない。
その時タイムリーな人に、タイムリーな話を聞きたいというだけ。もちろん、編集者として聞きたいときにインタビューを申し込んで受けてもらえるような人間関係は、日ごろから作っておく必要があるけれどね。
【梶原】2024年9月の総裁選直前には、高市早苗議員の増刊号を出しています。
【花田】1週間で作ったんだけど、結構面白かったでしょ。増刊号に再録した、彼女が松下幸之助さんについて書いた文章はとてもいいものでした。高市さんを応援してはいるけれど、まだまだ不満なところもあるよね。
【梶原】ただ、岸田政権を評価しなかったことで、結果として石破政権が誕生してしまいました。
【花田】それは本当に困るけどな(笑)。小川栄太郎さんにもそう言われてたんだけど。総裁選のときに石破氏が「男はつらいよ」の寅さんの格好をしていたじゃない。面白くないし、似てもいないし、なんなんだろうね、あれは。
【梶原】花田さんは石破総理が以前からあまり好きではないですが、雑誌には一度、登場してるんですよ。
【花田】え、そうだっけ?
【梶原】2014年2月号に〈「特定秘密保護法」で情報公開は進む〉(聞き手・田村重信)です。
【花田】そうか……。まあでも自分の感覚で言うと、言っていることもやっていることも、顔も好きじゃないから。話は面白くないし。
【梶原】石破政権を批判するにしても、反権力とか、権力の監視などというのとは違いますよね。
【花田】違う違う。ぼくが好きじゃないというだけ(笑)。
【梶原】花田さんの場合はそういう好き嫌いの感覚が、読者と合っているから雑誌が売れるんでしょうね。対象が政治家にせよ、芸能人にせよ、作家にせよ。
【花田】昔、『週刊文春』の合併号の時に「こいつだけは許せない」という特集をよく組んでたんだけれど、読者の反応は良かったよ。もちろん、誰を取り上げるかは編集部のみんなといろいろ相談したりはするんだけどね。他の雑誌も真似して、似たような企画をやっていたけれど、つまんないんだよ(笑)。
作家の大石静さんから、「花田さんは人気絶頂期から少し落ちてきたころの、叩きがいがある人やタイミングを見極めるのが絶妙」と言われたことがあるけれど、そういうことなのかもしれない。
【梶原】「なんか最近、鼻につくよな」というのがわかる嗅覚がある、と。2010年代に『週刊文春』が部数を伸ばしたときに編集長だった新谷学さんは「文春砲」と呼ばれていましたが、花田さんはその元祖ですか。
【花田】ぼくは「文春砲」って好きじゃないんですよ。もちろん、政財界の大きな事件なんかは張り込んででも取材すべきだと思うけれど、若い芸能人が恋愛した、不倫したって話を、何人も、何日もかけて追いかけてどうするの、と。しかも、1週、2週ならまだしも、何週にもわたってやるでしょう。そんなに何週もやるような話かねぇ、と。
【梶原】花田編集長時代の『週刊文春』は、婚約を発表していた貴乃花と宮沢りえが破談するというスクープを報じていましたが、あれは何週でしたっけ。
【花田】5週……。ただあの時は、2人を祝福する報道ばかりだった中で、「実は破談になりそうだ」とのスクープ情報が持ち込まれて、実際に破談が発表されるまでの間報じていたということだから。
【梶原】話が表に出たことが、破談の最後の一押しになったかもしれない。雑誌の影響力というのはそういうことで、例えば雑誌が安倍政権を推したことで政策や日本の行く末に影響が出るのではないかと。
あえて聞きますが、雑誌を通じて影響力を及ぼそうとか、世の中を動かそうという意図はないですか。
【花田】全くない。もちろん結果的にたまたま影響が及ぶということはあるでしょうけれど、あくまでも雑誌を多くの人に読んでもらいたい、ぼくが面白いと思ったことに共感してほしいという、それだけですよね。
【花田】だから「俺たちの追及で政権が倒れた!」と誇るようなこともないし、実際に雑誌に記事が出たことで政権が倒れたこともないしなぁ(笑)。田中健五さんがやった田中金脈は例外で。
基本的には、読者が読んでくれる、雑誌を買ってくれるっていうのが、編集者や雑誌に対する評価だから。
【梶原】「売らんかな」だ、という人もいますが、それは「儲けたい」のとは違いますよね。
【花田】違うなあ。もちろん続けるためには利益も大事だけれど、今だって売れてもぼくの報酬が上るわけじゃないしね。「多くの読者が読んで共感してくれる」ことに喜びがあるんだよ。
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(ライター・編集者 梶原 麻衣子、『月刊Hanada』編集長 花田 紀凱)

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