女子に学歴は必要ない?いまだに残る地域格差。女性の進学を阻む偏見と教育環境

東京大4年の川崎莉音さんは「なぜ女子より男子が保護者に難関大合格を期待されるのか」と疑問を抱いてきた。川崎さんは、地方に住む女子生徒の進学の選択肢を広げる「#Your Choice Project」代表を務めている。 2024年度の東大の女子学生比率は約2割。地方出身者はより少ない。「女子は周囲から浪人を反対されたり、地元に残ることを期待されたりしている。自己評価が低い傾向もあり、自分なんかが大学に行けるのかと考える人もいる」 日本社会にはいまだに「女子に学歴は必要ない」との考えが強く残る。共同通信は10月、「地域からジェンダー平等を2024 都道府県版ジェンダー・ギャップ指数をてこに」と題したシンポジウムを開いた。有識者や現役学生が女性の直面する地域格差、男女格差について議論を交わした。(共同通信=松本智恵)
▽東北と九州では大学に行く女性が少ない
東京都渋谷区で開かれたシンポジウム「地域からジェンダー平等を」
ジェンダー研究の第一人者、上智大の三浦まり教授はシンポジウムに寄せたビデオメッセージで「格差は自己責任で放置すべきものではない」と強調した。 三浦教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」のデータからは、明らかな地域格差が読み取れる。 昨春時点での都道府県別の女子の四年制大学進学率は、東京が最も高い76・5%。京都70・1%、山梨62・3%と続く。一方、東北や九州の8県では30%台で、女子が男子より上回ったのは徳島県だけだった。 ほぼ全ての都道府県で男子より女子の進学率が低い状況となっている。
▽地域間の「選択の格差」

教育をジェンダー視点で分析する九州大の河野銀子教授は「戦後、女子の進学率は上昇してきたが、現在も男子より約6%低く、大学在学者に占める割合も半数に満たない」と現状を説明した。進学は個人の自由意思によると考えがちだが、「地域の産業構造や教育環境が大きく関係している」と話す。 例えば、1次や2次産業の従事者が多い地域では、農業、工業など専門高校の比率が都市部より高いが、大学入試には不利になるケースがある。「普通科に進もうと思っても近くになければ下宿をしないといけない。地域間でこうした『選択の格差』が生まれている」と訴える。 その上でこう強調した。「自分が住んでいる地域にある男女格差などに当事者が気がつくのは難しい」
▽ジェンダー平等の基盤は自己決定権
NPO法人「Gender Action Platform」理事の大崎麻子さん
シンポジウムでは参加者から「教育は人生の選択肢を広げ、自己決定に不可欠なものだ」との声が上がった。 NPO法人「Gender Action Platform」理事の大崎麻子さんは「ジェンダー平等とは、男女が等しく権利と機会を得て、責任を分かち合い、意思決定に参画できる状態」と説明した。 その基盤は女性が自己決定しながら生きる力だという。大崎さんは「性と生殖に関する健康や男女対等な人間関係などを人権の観点から学ぶ包括的性教育が必要。日本でも導入するべきだ」と教育の重要性に言及した。
▽東京でのキャリア、地元では浮く?
食品製造「デリカウイング」の細川志織さん
食品製造「デリカウイング」(広島県廿日市市)の細川志織さんは、自らの学びの選択がキャリアに生きたと話す。 3歳から広島で育ち、中学生で英語のスピーチコンテストと出会い上智大学に進んだ。卒業後、より英語実務を通じてマネジメントを学びたいと外資系金融大手のJPモルガン証券に入社した。 リーダー職から部長職に至るまで、マネジメント経験を10年以上積み、同郷の夫と結婚。広島へUターンした。夫の家業の製造業で社員研修を担当したことをきっかけに、現在は大学での非常勤講師や女性起業家支援に携わる。女性社員が長期的に働けるよう、キャリア形成のワークショップや、関心が高い子育てや介護などをテーマとしたお茶会を開催している。 地元に戻った当初は「もしかしたら私、浮いてしまうかも」という怖さもあった。しかし「諦めずに活動していると、どんどん仲間が増えていった」。東京での学びや経験が地元に戻って生きているという。
▽女子生徒の選択肢、広がる
山田進太郎D&I財団の石倉秀明さん
理系分野の女子学生比率を上げようと取り組む山田進太郎D&I財団では、理系を選択した女子高校生への奨学金の支給や、中高生が理系の大学や職場で活躍する女性を訪問する事業を行う。 財団の石倉秀明さんは「ジェンダードイノベーション」に期待を寄せる。大学に女子学生が増えれば、「女子トイレが少ない」「徹夜でやるような実験は体力的に厳しい」といった、新たな視点が生まれるという。どれも男子中心の環境では気づかないことだ。 この考えは企業にも当てはまる。例えば自動車事故。女性の負傷者が多いが、長年メーカーの耐久テストでは男性のマネキンが使われていた。そこに女性技術者が加わると、大きな変化があった。「女性サイズでやらないのか」との疑問を投げかけられた。それをきっかけにテストの方法は改善された。 石倉さんは「日本は15歳女子の科学の成績は高いのに、理系分野の大学進学は低いという特殊な国だ」と指摘する。「理系を選ぶ選択を応援している人がいることや、勉強がどう仕事に結びつくか知ってもらう必要がある。理系分野に進む女性を増やしていきたい」と力を込めた。
▽ギャップを可視化、考えるきっかけに

シンポジウムのタイトルにもある「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数(GGI)」は、都道府県ごとの男女平等の度合いを政治、行政、教育、経済の4分野で算出したもの。2024年のグッドデザイン賞を受賞。「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」のサイトで見ることができる。 × × × シンポジウムの様子は、動画投稿サイトのユーチューブチャンネル「共同通信 地域からジェンダー平等を」で公開しています。

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