びっくりした。まさかの“暴露”だった。
・「国民民主党の悪口を書けとの依頼が出ている」玉木雄一郎氏がネット配信記事に反論(日刊スポーツWEB2月28日)
新聞で思わず笑ってしまった記事
国民民主党の玉木代表が『「103万円の壁」自公国協議打ち切りの舞台裏』(東洋経済オンライン)という記事に対してXで次の投稿をした。
「関係者に聞くと、国民民主党の悪口を書けとの依頼が出ており、この記事もその一環だと思われますが、あまりにも事実に反する内容に呆れています」
悪口依頼を出しているのは自民党なのか、他の野党なのか? 国民民主党の「年収103万円の壁」が支持を集めていることへのやっかみなのか?
そういえば新聞で思わず笑ってしまった記事があった。先月中旬、約2カ月ぶりに「壁」引き上げを巡る議論が再開された。そこで自民党が公明党、国民民主党に示したのが2段階の所得制限を設けたものだった。数字がいろいろややこしい。私が理解できていないのかと思ったら、記事の最後に「政府関係者」の言葉が載っていた。
・「もう少し分かりやすく説明できるようにしたい。初めて聞いた時、理解不能だった」(毎日新聞2月19日)
なんだ、政府関係者でも理解不能なのか。それなら我々にわかるわけない。自民はこの時点ではもう維新と組むことを決めていて国民民主にはややこしい案を提示したのだろう。議論のフリをした政局ショーだったのか。
玉木氏はそんな状況に対して逐一SNSで発信し、熱い賛同を集めている。最近「SNSと選挙」というテーマがよく言われる。昨年だと東京都知事選での石丸伸二氏や兵庫県知事選での斎藤元彦氏が思い浮かぶ。
2人を支持する論調で顕著なのは“既得権益”に対する怒りやマスコミ不信だ。だとすると玉木氏も注視したいのである。玉木氏は「手取りを増やす」と訴えて現役世代の共感を集めた。国民民主党は見事に浮上した。
「尊厳死の法制化」と主張していた玉木氏
しかし気になる点もある。昨年の総選挙で玉木氏が現役世代の社会保険料を減らすために「尊厳死の法制化」と主張していたことだ。日本記者クラブ主催の党首討論(2024年10月12日)では「社会保障の保険料を下げるためには、高齢者医療、特に終末期医療にも踏み込んだ、尊厳死の法制化も含めて」と発言した。
さらに、
「こういったことを含めて医療給付を抑えて若い人の社会保険料を抑えることが消費を活性化して次の好循環と賃金上昇を生み出す」
つまり高齢者が長生きしているから保険料がかかる、だから尊厳死を法制化して自分から死んでもらう?
この発言が批判されると玉木氏はXで「雑な説明になったことはお詫びします」と釈明した。だが雑な説明どころか国民民主党の総選挙公約のパンフレットには尊厳死法制化は「現役世代・次世代の負担の適正化に向けた社会保障制度の確立」の項目の一つとして記載されていたのだ。現役世代の溜飲を下げたいあまりに高齢者を標的にした分断戦略にも見えた。
すると最近また玉木氏のXでの発言が注目された(2月15日)。今度は外国人に対してだ。
「外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう、制度を見直すべきです。 現役世代が苦労して支払う社会保険料は、原則、日本人の病気や怪我のために使われるべきです」
この言説に対しては河野太郎氏(自民党)や山添拓氏(日本共産党)らが反応した。
河野氏は「問題から目をそらすことになるだけ」と…
・「『外国人に保険医療を受けさせるな』では問題は解決しませんし、問題から目をそらすことになるだけです」(河野氏ブログ・2月16日)
「3ヶ月を超えて日本に滞在する外国人は、社会保険ないし国民健康保険への加入が義務付けられ、病院にかかる必要があろうがなかろうが保険料を支払う。それは結果的に医療制度を支えている。『現役世代』を『外国人の医療費』が圧迫しているわけではない。乏しい社会保障政策こそが問われている」(山添氏X・2月16日)
メディアでは日刊ゲンダイが『国民民主党・玉木雄一郎代表「外国人は数万円で1.6億円の治療」は“排外主義”煽るミスリード』(2月18日)と書き、東京新聞「こちら特報部」は外国人の人権擁護に取り組むNPO法人代表の以下のコメントを載せた。
「高額療養費の負担軽減を議論する場面でなぜ突然、外国人の利用の問題が出てくるのか。国政政党の代表者が根拠のない発言で問題をすり替えることで差別を呼ぶ。日本社会のさまざまな不満を特定のマイノリティーに向けようとしている」
玉木氏のSNSにはメディア批判もある。時には支持者に「マスゴミ批判」の笛を吹いているような振る舞いもある。そう、冒頭で紹介した「国民民主党の悪口を書けとの依頼が出ている」という発信も同様にみえる。
こうすることで玉木氏や国民民主に対する論評ですら「悪口」と言い換え、すべて仕組まれたものとして誘導してないだろうか。103万円の壁を人質に取り、生活を少しでも楽にしたい人々をSNSで煽っていないか?
こうした手法をどう考えればいいのか。朝日新聞に参考になるものがあったので取り上げよう。
『人を見下す態度と自尊感情、少数派への非寛容が動かした選挙結果』(朝日新聞2月10日)で注目したのは、自分たちはマジョリティとして十分な利益を享受していないのに、マイノリティはその立場を逆手にとって利益を得ていると考える一部の有権者の心理的態度だ。立教大学教授の木村忠正氏が解説している。
やり玉に挙げた「外国人」というキーワード
その一例として、
《外国人、性的少数者、障がい者、少数民族、未成年、生活保護受給者、ベビーカーを押す母親など、少数派への批判的視線、非寛容は、決してばらばらの事象ではありません。》
まさに玉木氏がやり玉に挙げた「外国人」というキーワードがある。他もネットでよく攻撃されている。
『国民民主は「令和の民社党」、「玉木総理」は非現実的 専門家が分析』(朝日新聞2月11日)では国民民主党の原動力を、SNSに加えて、リアルな知り合いからの「口コミの強さ」にあると専門家が分析している。
この分析に対して「最近の国民民主党には、右傾化の傾向が見受けられます」とコメントしているのは政治学者の中北浩爾氏だ。メディア調査を参考にすると、国民民主党の先の衆院選での躍進は「103万円の壁」に関する政策的な支持だけでなく「石破総裁になって中道化したことで自民党から離れた保守層が、国民民主党に向かった可能性がある」という。今後のシナリオの一つには自民党右派(高市早苗議員ら)との連携も浮上してくると予想し、「国民民主党はどこに向かうのでしょうか」と締めている。
いずれにしても玉木氏はSNSでもよく目立つようになった。「コツ」をつかんだようだ。現役世代に響く政策は大きな武器だ。どこと連携するのも自由。しかしその矛先がマイノリティにまで向けられ、煽る手法を見るとエッと思う。
ちなみに今回のコラムは誰かに依頼されたものではありません。悪口ではなく危惧です。ご了承ください。あと玉木さん、本日3月4日から「役職停止」が明けましておめでとうございます。
(プチ鹿島)