中国の管理・監視嫌い、中国人富裕層「日本へ」 経営管理ビザ悪用 侵食~「移住」

中国人富裕層が日本への「移住」を目指す背景には、日本の社会保障制度を享受したいとする狙いもあるとみられる。その「移住」の手段の一つに警察当局が悪用を確認したのが、いわゆる「経営管理ビザ」の日本の在留資格だ。条件に合う会社を「設立」し、ビザを取得できて自身や従業員らの保険料を納めさえすれば、手厚い日本の社会保障の「傘」に入ることができる。その保護範囲は、連れてきた家族にも及ぶ。
《国民健康保険を享受でき、医療費は、政府が7割負担》。中国人の顧客に経営管理ビザを取得させていたブローカーの「日本移住」を誘うパンフレットにも、医療費の負担免除などについて詳細な記述が確認された。
9法人のうちの経営者の1人とみられる50代の中国人男性が、取材に応じた。男性が来日したのは昨年9月。日本語は分からずブローカーに登記してもらった会社の10を超える事業にも着手していないとする。「これ(経営管理ビザ)で家族が安心した生活ができ、子供も日本の教育を受けられるんだよ」。本音が漏れた。
全国の医療機関に支払われた令和5年度の医療費は総額で47・3兆円に上り、3年連続で過去最高を更新した。超高齢化社会を迎え、高齢者の医療費が膨らんだ要因が大きいが、その中には、不正とも取れる手段で「移住」した中国人の医療費も少なからず含まれている。
捜査関係者によると、警察が摘発した女らが「手引き」した9法人の関係者5人に医療費請求を確認した。5人の直近1年間の通院は計43回。がんや糖尿病、胆石の治療のほか、眼科や歯科に受診した履歴があった。
しかし、女ら3人は不起訴処分になった。検察は理由を明らかにしていないが、明確な違法性の立証が難しく、9法人の会社登記にも外形上は問題はなかったとみられている。
外国人の国民健康保険加入を巡っては、平成24年に加入要件である日本滞在期間が「1年以上」から「3カ月以上」に引き下げられた。ハードルの低下で、留学や就労などを隠れみのに治療を目的とする外国人の来日や「医療制度タダ乗り」への懸念はくすぶり続けている。
ただ、同様の「立証の難しさ」が理由だとみられるが、厚生労働省は在留外国人による、こうした不正な保険利用の件数は30年以降、「ゼロ」だとしている。
「潤」。北京や上海の富裕層の間では、今、この言葉が流行する。中国語で「ルン」と発音するが、英語で逃げることを意味する「run」と似ていることからきている隠語だ。中国当局の管理・監視を嫌い、海外に移住する動きを指す。
その「潤(ルン)」のターゲットに間違いなく日本が挙がっている。経営管理ビザで日本に滞在する中国人は令和6年6月時点で、2万551人(香港、その他含む)に上る。経営管理ビザが設けられた平成27年から約2・8倍増加した。
国はペーパーカンパニーなど「資格に合う活動をしていないのならば帰国させる」(出入国在留管理庁関係者)とするが、全てを確認できないとも明かす。結果、中国人「移住者」は増え、彼らの社会保障費も膨らみ続けている。(大渡美咲、宮野佳幸、外崎晃彦、海野慎介)

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