米価70%高騰の裏で、JA関連団体から1.4億円…“農林族のドン”森山幹事長に聞いた、「JAの意向」《元農水官僚が名指し批判》

〈 《コメ不足問題の暗部》130億円超の“減反交付金”は「不適切」会計検査院が指摘…専門家は「ずさんな運用を続けてきた」 〉から続く
コメの値上がりが深刻だ。都内では5キロあたりの小売価格が4000円を超え、庶民の懐は寒くなる一方。政府はようやく備蓄米放出を決定したが、なぜここまで遅れたのか。背景には、票とカネをめぐる“コメ癒着”が――。
満面の笑みを見せた石破首相
首相官邸から車で6分の東京・紀尾井町のホテルニューオータニ。2月20日夜、同ホテル内の日本料理店「KATO’S DINING & BAR」に、石破茂首相(68)の姿はあった。
同僚議員ら数人と卓を囲んだのは、最大で20人収容可のVIPルーム(室料2時間5万5000円)だ。日本酒を片手に、銀鱈の西京焼きや天ぷらなど1万2000円のコース料理を堪能。料理を引き立てるのが、新潟県魚沼産コシヒカリだ。同席した山口俊一衆院議員が振り返る。
「新しい地方経済・生活環境創生本部のメンバーとして総理と意見交換しました。最初はお疲れの様子でしたが、次第に石破節が戻り、最後はご機嫌でした」
首相は極上の高級和食に舌鼓を打ち、こう言って満面の笑みを見せた。
「日本は地方からですねぇ」
総務省が1月の消費者物価指数を発表し、米類の指数が前年同月比で70.9%上昇していることが明らかになったのは、その翌日のことだった――。
政治部記者の解説。
「東京都区部では今年1月のコシヒカリ5キログラムの小売価格が、昨年同月の2441円から71.5%増の4185円となった。米価の高騰は昨夏から続いていましたが、農水省が備蓄米21万トン放出を発表したのは今年2月14日のこと。
石破首相が7月の参院選に向けた物価高対策のため、2月になってようやく備蓄米放出を指示したとされますが、リーダーシップを発揮するには遅きに失したと批判されています」
2008年の麻生太郎政権では農水相を務めるなど、農林族として農政には精通しているはずの石破首相。なぜ備蓄米放出はかくも遅れたのか。
なぜ備蓄米放出はかくも遅れたのか
「農林族議員も農水省も、JA(農業協同組合)の顔色を窺っているのです」
そう指摘するのは、元農水官僚でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹だ。
「昨年の夏、23年産米が猛暑の影響で40万トン足りなくなった。この時点で備蓄米を放出するべきでした。しかし農水省は『卸業者が米を隠している』旨の根拠のない主張を展開し、江藤拓農水相も省の見解に従って『どこかで米がスタック(滞留)している』と言っていた。農水省が米不足を否定し備蓄米放出を渋ったのは、米価が下がってJAが反発するのを恐れているからです」
22年度のJAの組合員数は正組合員が393万人、准組合員が634万人。農林族議員にとって、JAが貴重な票田であることは言うまでもない。じつは、石破政権の中枢を占めているのが、この農林族議員たちなのだ。
「石破首相だけでなく、政権ナンバー2の林芳正官房長官や党を支える森山裕幹事長、坂本哲志国対委員長は皆、九州や中国地方といった農業県選出の農水相経験者です」(前出・記者)
さらに、山下氏が「理解に苦しむ」と“名指し”する農林族議員がいる。石破氏の懐刀である小野寺五典政調会長だ。
「選挙区には米どころの宮城県気仙沼市が含まれ、水田農業振興議員連盟会長でもある。総裁選の決選投票では石破氏に投票し、野党との予算協議においても石破首相から全幅の信頼を寄せられている。そんな小野寺氏ですが、じつは減反政策の推進論者なのです」(同前)
減反は、現在の米不足の根本的な原因だとされる。政府が毎年の生産目標を決め都道府県に配分する減反政策は18年に廃止されたが、その後も農水省は生産量の目安を示し、主要食米の代わりに大豆・麦・飼料用米などを作る農家に補助金を支給して、米の生産量を減少させてきた。つまり、事実上の減反政策が続いてきたのだ。こうして米の生産を需要ギリギリまで抑えることで、高水準の米価が維持され、JA側もこれを歓迎してきた。
これに関し、小野寺氏は過去に〈全国的に主食用米から飼料用米などへの転換に協力してもらう必要がある〉(日本農業新聞 20年11月4日付)などと、減反推進発言を繰り返してきた。山下氏が批判する。
「食の安全保障と減反政策は絶対に相容れません」
「ウクライナ戦争を契機に食料の安定供給の重要性が高まる中、食の安全保障と減反政策は絶対に相容れません。国防族でもある小野寺さんの発言とは思えない」(小野寺氏は書面で「コメを含めた農業政策について、食糧安全保障の観点からもしっかり後押ししていきたい」と回答)
石破政権の中枢が推進する減反政策。かたやJAは減反廃止が決まった後も、全国のJAを束ねるJA全中(全国農業協同組合中央会)の当時の会長が〈コメは「需要に見合った生産」が大原則〉(読売新聞19年5月31日付)と語っていた。小野寺氏の発言は、こうしたJAの立場と平仄を合わせたように見える。さらに取材を進めると、JAが農林族に提供していたのは、票田だけではないことが浮かび上がってきた。
「米が足りない状況ではない」
・鹿児島いずみ農業協同組合 30万円
・種子屋久農業協同組合 30万円
・あいら農業協同組合 60万
以下、13ものJA関連団体からのパーティ券収入がずらりと並ぶ収支報告書。森山氏が代表を務める「近未来政治研究会」(森山派、昨年解散)が23年に開催した政治資金パーティについての記載である。
「週刊文春」は、自民党の主要な農林族6人(森山氏、小野寺氏、江藤氏、野村哲郎元農水相、藤木眞也元農水政務官、山田俊男元党農林部会長)に関連する政治団体の政治資金収支報告書を精査した。すると、21年から23年の3年間で、JA関連団体からの献金やパー券収入が約1.4億円に上ることが明らかになったのだ。
中でも“農林族のドン”として農水省に圧倒的な影響力を誇るのが森山氏だ。
「24年に成立した『農政の憲法』と称される食料・農業・農村基本法の改正を主導。これは『水田の畑地化』を明記して事実上の減反を推進するなど、JA保護とも取れる改正でした。JA全中の山野徹会長は、森山氏の地元である鹿児島県のJA出身で、関係性は深い」(農業ジャーナリスト)
そんな森山氏の関連政治団体におけるJA関連団体からの献金・パー券収入は、3年間で計840万円に及ぶ。森山氏に尋ねた。
「必ず適正な価格に戻ると思っています」
――備蓄米の放出が遅れた。
「どう考えても米が足りない状況ではない。どこかで目詰まりしているのではないか。必ず適正な価格に戻ると思っています」
――今も減反を進めているのでは。
「減反ではなくて、適正消費量にあった米作りをしましょう、と」
――JAの意向は強い?
「今はそんな時代じゃない。農協に米が5割も集まらない時代ですから」
森山氏と同じ鹿児島県選出の野村元農水相への支援はさらに手厚い。16の鹿児島県のJA関連団体などから、3年間で3065万円の献金やパー券収入が確認できた。
「野村氏はJA鹿児島中央会に35年間勤務していた筋金入りの農林族。安倍晋三政権下の15年に小泉進次郎氏が党の農林部会長として農協改革に乗り出したことがありましたが、小泉氏の後任となった野村氏は改革路線を骨抜きにした」(経済部記者)
最も支援されていたのが組織内議員の藤木元農水政務官。全国農協青年組織協議会の元会長で、22年の参院選全国比例区で18万票を獲得し2度目の当選を果たしている。JA関連団体からは、全国農政連(全国農業者農政運動組織連盟)からの寄付を中心に9199万円が渡っていた。野村氏、藤木氏両名に尋ねたところ、献金によって政治活動が左右されることはない旨の回答があった。
票とカネで粘度強く絡みついた、農林族とJAとの“コメ癒着”。これを前に、リーダーシップを発揮できずに立ち往生しているのが石破首相である。石破首相にJA団体側からの献金は見当たらなかったが……。政治ジャーナリストの青山和弘氏が指摘する。
「石破首相は農林族の中では異端児で、以前から減反政策の廃止が持論。今回も『米の価格高騰は日本の農業政策を転換するチャンスかもしれない』と語っていた。ただ、党内基盤の弱い石破首相に思い切った改革ができるかは未知数です」
駅で日刊ゲンダイを購入し……
米問題だけではない。目下、石破首相が“丸投げ”しているのが、国会の新年度予算案の採決にも影響を及ぼす、旧安倍派元会計責任者の参考人招致だ。
「元会計責任者の松本淳一郎氏は、昨年、旧安倍派による6億7500万円の裏金事件をめぐり有罪判決を受けた。野党は国会での参考人招致を要求。2月20日に非公開、国会外での聴取でいったんは合意していた。にもかかわらず、松本氏が再び難色を示し、前日に聴取が延期となったのです。結局、2月27日の聴取が決定しましたが、このドタバタの間、石破首相は国会対応を森山幹事長に任せきり。混乱収拾に乗り出すことはなかった」(政治部デスク)
国会運営をかき回している松本氏の背後には、旧安倍派議員の影がちらつく。
「自民の予算委筆頭理事である井上信治氏は野党側に、松本氏が複数の旧安倍派議員から2~3カ月にわたって『参考人招致に応じるな』と“恫喝”され続け、精神的に参ってしまったと説明した」(野党幹部)
2月21日夕刻、松本氏の姿は東京・高田馬場駅内のキオスクにあった。新聞を何紙か手に取り、購入したのが日刊ゲンダイ。一面には「ドタキャンの裏に安倍派『脅し』」との見出しが躍る。「週刊文春」記者は松本氏に声をかけた。
――「招致に応じるな」と誰から言われた?
「…………」
松本氏は何を問われても口を真一文字に結び、「しっしっ」と手で追い払う仕草を見せたのだった。
リーダーシップに欠ける石破首相による、実りなき国会論争は続く。

「 週刊文春 電子版 」では、「 農水官僚とJAのコメ癒着 28人の『天下りリスト』《コメ暴騰の元凶を連続直撃!》 」にて「天下りのリスト」の中身や、天下り再開に関する元最高幹部の告発、さらに農水次官経験者ら6人の農水省元幹部への直撃などについて詳報している。
また、「 森山裕幹事長と農水官僚を操る 『JAのドン』は何者か?《備蓄米放出でも米価高止まりの“元凶”》 」では、「不適切」とされた交付金運用の実態、農水省の説明と矛盾する証拠文書の存在、森山裕幹事長と蜜月関係にある“JAのドン”の正体、森山氏との一問一答についても詳報している。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年3月6日号)

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