「深刻な懸念を有している」──。トランプ米大統領による関税措置について、石破政権が国会で繰り返す常套句だ。日米貿易協定で交わした「約束」を一方的に踏みにじられたのに、トランプ大統領の怒りを買うまいと平身低頭。これから交渉が本格化するが、不安は尽きない。
関税交渉を担当する林官房長官は21日の会見で、専従チームを発足させたと発表した。外務省や経産省、財務省などの職員37人に、農水省や国交省などから参事官ら10人が加わるという。
「オールジャパンで最優先かつ全力で取り組む」(林)と気合だけは十分だが、卑屈なまでにトランプ大統領に迎合しているのが実情だ。ホワイトハウスを訪れ、トランプ大統領と“信者”の合言葉「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」と書かれた赤い帽子をかぶり、ニッコリと写真に納まった“MAGA沢”こと赤沢経済再生相が象徴的だ。「格下」らしい振る舞いではある。
赤沢氏は今月中に再び訪米し、2回目の協議実施を目指す。日本の基幹産業である自動車をめぐる関税が最大の懸案事項だが、交渉が本格化する前から及び腰だ。
2019年、安倍政権時代に最終合意した日米貿易協定に基づき、米国が日本から輸入する自動車への追加関税は課さないと約束したはずが、トランプ大統領は今月3日から日本にも25%の自動車関税を容赦なく発動。横紙破りのトランプ大統領に「協定違反だ」と主張してしかるべきなのに、石破政権はかたくなに「違反」を認めない。
21日の参院予算委員会は、トランプ関税に関する集中審議を実施。立憲民主党の小沼巧議員が「日本政府は自動車関税が日米貿易協定違反だと認識しているか否か」を問いただしたが、石破首相も赤沢氏も「協定との整合性に深刻な懸念を有している」の一点張り。「なぜ違反だと言い切れないのか」との質問にも「整合性に──」と繰り返す石破に、小沼氏は苦笑しつつ「真面目に答弁して欲しい」と呆れていた。
コメの輸入拡大で盗人に追い銭
協定破りすら堂々と主張できないばかりか、むしろ“ご機嫌取り”に必死だ。政府内ではトランプ大統領の要求通り「米国産コメの輸入拡大」が交渉材料に挙がっているという。協定で交わした米国産の牛・豚関税の段階的引き下げも律義に守っている。まるで盗人に追い銭である。
「日本の非関税障壁として、ボウリング球による車体検査というデタラメを繰り返すトランプ氏に、まっとうな議論が通用するとは思えません。トランプ関税は米国を偉大にするどころか、貧しくする愚策なので長期間続くとは考えにくい。日本政府は安易な妥協をせずに、深入りしないことです」(経済評論家・斎藤満氏)
協定違反を指摘しないのは、そもそも日本車への追加関税を課さない約束を明確に交わしていないからではないか。シンゾーとドナルドの口約束でなければいいのだが。
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米国側へ提示する“交渉カード”として浮上しているのがコメの輸入拡大。石破首相は「農産物の市場開放は生産者保護と両立させる」と豪語するも、そんなうまくいくのか。●関連記事【もっと読む】『石破自民に分断の危機…トランプ関税“交渉カード”に「コメ」浮上で農水族vs商工族のバトル勃発も』もあわせてどうぞ。