北海道電力泊原発3号機が30日、再稼働に向けて原子力規制委員会の安全審査に事実上合格した。次世代半導体の国産化を目指すラピダスやデータセンターの進出が相次ぐ北海道は今後、電力需要の増加が見込まれている。一方で、7年前の大地震では日本初のブラックアウト(全域停電)も経験した。脱炭素を実現する安定電源の確保は「産業立国」復活へののろしとなる。
「日本の世界的競争力を上げる企業が北海道に進出するのは有益。しっかり下支えするのはわれわれの役目だ」。北海道電力の斎藤晋社長は30日の決算会見で、泊原発が再稼働する意義をこう強調し、電気料金の値下げについて早期に説明する考えを示した。
ラピダスは米IBMと連携し、世界でも商用例がない回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)相当の半導体生産技術の開発に取り組んでいる。令和9年の量産開始を目標に、4月1日には北海道千歳市の工場で試作ラインを稼働させた。
ただ、量産化には5兆円規模の投資が必要とされる。このため政府はラピダスに総額約1兆7千億円の助成を決めた。経済産業省が所管する独立行政法人を通じて、政府が支援対象企業に出資する仕組みを定めた改正情報処理促進法、いわゆる「ラピダス支援法」も4月に成立した。
ソフトバンクも同月15日、苫小牧市で国内最大級となるデータセンターの建設に着手した。首都圏や関西圏と並ぶ中核拠点と位置づけ、高性能コンピューターを配備する予定で、8年度中の本格運用を目指す。
周辺に産業集積進める政府
政府は安価な電力の安定供給が見込める原発周辺への産業集積を進めている。だが、平成30年9月に北海道南西部で発生した最大震度7の地震で道内のほぼ全域295万戸が最長2日間停電した。地震発生直後、道内の主力電源だった火力発電所が緊急停止し、発生から17分間で206万キロワットを喪失した。電力の需給バランスが崩れ、北海道電は一部地域への送電を遮断する強制停電に踏み切った。このとき泊原発は停止中だった。
全域停電の遠因として石炭火力への過度な依存も指摘されている。
燃料費高騰も重なり、同電力管内の家庭向け電気料金は大手電力10社の中で沖縄電力に次いで高い。発電コストの安定性は一般家庭だけでなく、膨大な電力を消費する地域の産業振興にも寄与する。北海道電は2030年代前半に保有する全3基のフル稼働を目標に掲げる。フル稼働すれば、発電量の7割近くを原子力が占める見通しだが、斎藤社長は再稼働後の料金値下げを明言した。
規制委の安全審査には国内でこれまで10原発17基が合格し、8原発14基が再稼働している。日本の電力需要は今後、人工知能(AI)の普及に伴って増大することが予想されており、安定電源は不可欠となる。
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断層評価が難航、議論に11年10カ月要す
北海道電力泊原発3号機の安全対策を巡る原子力規制委員会の議論は11年10カ月に及んだ。泊原発は半径160キロ圏に将来に活動し得る13の火山があり、原子炉建屋近くを走る断層が活断層かどうかが最大の論点となった。
東京電力福島第1原発事故後に国が定めた新規制基準は、活断層の真上に原子炉などの安全上重要な施設の設置を認めていない。北海道電は新規制基準施行日の平成25年7月に泊原発1~3号機の安全審査を申請した。同じタイミングで申請があった他の原発は審査が既に終わり、泊3号機は敷地内断層の活動性を否定する立証に難航した。
最大の理由は、専門知識のある社内人材が不足し、規制委側を納得させる説明ができなかったことにある。このため、審査が先行する他の電力会社などの支援を受け、断層評価だけで約8年もの時間を要した。
審査の結果、耐震設計の目安となる基準地震動は、申請当初の最大550ガル(ガルは加速度の単位)から最大693ガルとなった。津波想定も海抜7・3メートルから17・8メートルに引き上げたが、規制委が指摘した液状化現象で防潮堤が沈下する可能性を考慮し、高さ19メートルに造り直した。また、周辺の火山の噴火で厚さ40センチの火山灰が降り積もる事態も想定する。
北海道電によると、泊3号機の安全対策工事の総額は想定を大きく上回る約5150億円。今後、テロ対策設備などで費用はさらに膨らむ見通し。規制委の山中伸介委員長は定例会合後の会見で「特に自然ハザードについて慎重に審査を行った。ただ、審査のやり方は改善が可能かなと思う」と述べた。(白岩賢太)