夏の参議院選挙を前に、各党が競い合うように訴えている減税。なかでも公明党は減税や給付を公約に盛り込む方針を示していますが、一体なぜそこまでこだわるのでしょうか。
物価高で“給付”か“減税”か公明党が動く背景とは
井上貴博キャスター: 公明党としては「減税+α」、つなぎの意味での給付ということを主張しています。
公明党の幹部としても「秋の臨時国会では、補正予算に給付の予算を盛り込ませたい」と“本気度”をにじませているそうです。
公明党として給付に固執する背景には、何があるのでしょうか。
TBS報道局政治部 島本雄太記者: 給付にこだわるワケには、“過去の成功体験”と“焦り”があります。
【給付めぐる公明党の成功体験】 ▼1999年「地域振興券」 景気対策 1人2万円商品券(子育て世帯・低所得高齢者) ▼2009年「定額給付金」 リーマン・ショック 1人1万2千円支給(子ども・高齢者は2万円) ▼2020年「特別定額給付金」 新型コロナ感染拡大 1人10万円支給 ▼2024年「定額減税」 物価高対策 1人4万円差し引く
1999年の小渕内閣(当時)のときは、当時の野党である公明党の意見を取り入れて実現しました。その後、連立に入っています。
2020年の新型コロナの感染拡大の際には、「減収世帯に30万円給付」という自民党の案を、公明党の山口代表(当時)が「1人一律10万円給付」に変えて実現したという成功体験があります。
井上キャスター: 「連立離脱も辞さない」と、かなり強く迫ったのが2020年ですね。
TBS報道局政治部 島本記者: 給付を党の成果として支持層にアピールしてきましたが、その支持層にも変化が表れています。
公明党の衆院選の比例票は年々減少しており、▼2005年は過去最多の約898万票でした。しかし▼2014年は目標の800万票に届かず約731万票で、▼2024年は過去最少の約596万票と、ここまで減ってしまいました。
2024年の衆議院選挙では、与党に逆風が吹いていたところもありますが、それにしても大きな減少になってしまっています。
支持母体の創価学会の会員数は、国内約827万世帯と公称していますが、票数にかなり大きな開きがあることがわかると思います。背景には、高齢化で学会員数の減少が進んでいることや、賃上げの影響を受けない年金生活者が増えてきたこともあり、現金給付を強く求める声は、党内や支持団体のなかにもあります。
井上キャスター: 国内で約827万世帯あるなか、票数が600万票にいかないということは、会員数とだいぶ開きがありますね。
公明党としては、党として与党のなかで上手くやりくりできて、自民党に給付案を飲ませたことを成功体験だとしています。
しかし、給付が貯蓄に回ってしまったということを考えると、それが本当に成功体験だったのか。国民にとってはズレがあるように感じてしまいます。
経済アナリスト馬渕磨理子さん: 選挙を考えると、給付は「もらった」という感覚を持ちますが、経済学的に見ると、給付よりも減税のほうが効果は大きくなります。
公明党が“給付”にこだわる理由
TBS報道局政治部 島本 記者: 続いて、公明党の焦りについてです。
2024年の衆議院選挙で与党が大敗した結果、自民党と公明党は少数与党になってしまいました。これは、法案や予算案を通す場合に、野党の協力なしには成立できないということを意味しています。
たとえば、国民民主党が訴えている“年収の壁の引き上げ”や、日本維新の会が掲げてきた“教育無償化”などを、与野党で協議しながら政策を取り込むという流れが、今の国会のプロセスに取り入れられています。
公明党がこれまで果たしてきた役割を奪われた形になり、主張などが受け入れられず、入り込めないような状態になっており、与党として焦りを感じていると思います。こういったことから、「“給付”で独自色を出したい」というような思惑も透けていると思います。
井上キャスター: ▼国民民主党は年収の壁の引き上げ、▼日本維新の会は教育無償化というように、政党にカラーが出始めているなか、公明党は何を打ち出しているのか。その差別化のために「“給付”で独自色を出していきたい」と、給付に固執しているのではないかということですね。
給付と減税、どちらが効果的?メリットとデメリットは
井上キャスター: 給付と減税はどちらが良いのか、経済学アナリスト馬渕磨理子氏にメリットとデメリットを聞きました。
【急ぐなら給付】 ・最低でも1人4万円必要 ・所得制限を設けるべき
【経済効果なら減税】 ・減税の方が経済波及効果は2倍 ・複数年実施しないと効果は薄い
所得制限をどのくらいのラインに設けるかなど含めて、馬淵さんに細かく解説していただきます。
経済アナリスト馬渕磨理子さん: 公明党は一律に皆さんに差別なく給付したいというマインドを持っている政党なのですが、やはりバラマキの色合いが強いので、もし給付をするならば、今回はさすがに所得制限を設けるべきだと思います。
たとえば年収600万円や、夫婦で年収900万円ぐらいの世代のところで所得制限を設けていく必要性があると思います。
一方で、「給付をしたので消費減税はやりません」となると国民からの信頼を損ねるので、給付をつなぎとして行い、消費減税を2026年以降に行う必要性があると思います。
給付と消費減税を比べると、経済効果は減税のほうが2倍大きくなります。消費をした方が恩恵を受け、どんどん物を買おうというマインドになるので、消費減税のほうが経済波及効果が見込めます。
立憲民主党は今のところ1年間の消費減税という案ですが、これではやはり効果薄です。たとえば私が考えるのは、実質賃金が明確にプラスになり、物価を上回る所得が確認できるまで消費減税を行うという案です。財源との兼ね合いがあるので、複数年実施していくことが必要だと思います。
井上キャスター: 財源は何で考えていますか?
経済アナリスト馬渕磨理子さん: 財源は税の上振れ分、赤字国債、コストカットという3つを組み合わせていく必要があると思います。
========== <プロフィール> 島本雄太 TBS報道局政治部公明党を中心に取材 休日は料理作りとお酒で気分転換
馬渕磨理子さん 経済アナリスト日本金融経済研究所代表理事 “日本一バズる”アナリスト 様々なお金の話をわかりやすく解説