海上保安庁が、海上自衛隊の定年退職者を対象に、大型巡視船での勤務を想定した船員の採用を始めたことがわかった。来月初めて2人を採用し、今年度中に15人前後の確保を目指す。また女性職員が増える中、65歳超を含む元海上保安官が育児休業者を補う代替要員の登録制度を創設したことも判明。人材確保の強化に向け、採用と離職防止の両面で対策を進める。(森田啓文)
政府は2013年度以降、沖縄県・尖閣諸島周辺での領海警備の強化を目的に海保の定員を年平均170人増やし、今年度は最多の1万4889人となった。
だが21年度以降、20~30歳代を中心に自己都合退職者が300人を超え、24年度末の定員と実際の人員の差(欠員)は665人に拡大。30~50人が乗り組む大型巡視船の欠員率は12%(355人、1月)に上り、「船内での兼務を増やすなどしてやりくりし、乗組員の負荷は大きくなっている」(海保幹部)という。
こうした状況を受け、海保は主に大型巡視船での勤務を念頭に、海自で定年(55~58歳)を迎える退職予定者向けの人材募集を始めた。航海、機関、通信、主計、砲術の5職種で船員を募り、希望に応じて全国で勤務先を調整する。
その結果、今年6月に航海と主計で男性職員2人を採用することが決まった。海保の人事担当者は「海自と海保、役割は違っても同じ『船乗り』として共通点は多く、船務に長けた人材の確保につなげたい」と期待する。募集する職種の幅も拡充していく。
多くの自衛官は56歳で定年を迎え、退職後の収入への不安も採用難の一因とされることから、海自側にも退職自衛官の就労先が増えるメリットがある。
一方、65歳超を含む元海上保安官11人が4月、育児休業者の代替要員として1年以上の任期付きで勤務を始めた。海保では1年以上の育休取得者は年約50人で、女性職員は4月時点で1467人(9・9%)と過去最多を更新した。新人の約2割は女性のため、今後も育休者の増加が見込まれる。
そこで、代替要員としての勤務を希望する海保OBを事前に登録し、1~3年の育児休業者が出た際、採用情報を連絡する仕組みを新たに設けた。即戦力となる代替要員を確実に配属して欠員を一人でも減らす狙いがある。現在7人が登録されている。
65歳超の採用も海保では初めて。他の受験者と同様に健康状態の確認や作文試験、面接に合格する必要がある。海保幹部は「今後も前例にとらわれず、離職対策を含めた人材確保の強化を続ける」としている。