「会社にいたければ黙っているように」…福島・いわき信組不正、上司らによる口止め行為も確認

「我が国の金融機関の歴史を見ても類例をみないほどに悪質な事案」――。いわき信用組合(福島県いわき市)が不正融資による資金流用などを繰り返していた問題で、同信組が設置した第三者委員会は30日、長年にわたる不正を組織的に隠そうとした同信組の悪質な体制を痛烈に批判した。(山口翔平)
調査報告書によると、同信組は、経営状況が悪化した大口融資先に、融資限度額を超えて融資することを画策。遅くとも2004年から事業実態のないペーパーカンパニーを通じた迂回融資を行い、07年からは一般預金者などの名義を無断で使った偽造口座で不正融資を始めた。
これらの不正融資を隠すための行為は、歴代の役員らの間で引き継がれていた。融資の返済期限が近づくと、通常は顧客に通知が届くが、無断で口座開設したケースでは、通知を組合側で抜き取っていたという。事情を知らない職員が顧客に連絡しないよう、口座の顧客情報で異なる電話番号や生年月日を登録するという工作も行われていた。
第三者委が全職員に対して実施したアンケートからは、上司らによる口止め行為も確認された。不正融資を知らない職員が手続きに疑問を抱くと上司らから「会社にいたければ黙っているように」「言われたとおりやればいい」などと圧力をかけられたケースがあったという。一連の不正について、報告書では「多数回の犯罪的な不正融資」と断じた。
第三者委の調査の前後にも証拠を隠滅しようとする動きがあった。同信組では、不正融資のリストデータを入れたノートパソコンを保管していたが、第三者委の聞き取りに対し、昨年11月に不祥事が公表される直前に破壊したと回答したという。また、他の役員も業務に関する記録が書かれた資料を処分したとしている。このほか、第三者委の調査に虚偽の説明や重要な資料の提出を行わないなどを繰り返し、「不祥事に伴う第三者委の調査実務でも前例のない状況」と批判した。
今回の調査でも不正の全容解明には至っていない。不正融資の調査から、約8億5000万~10億円の使途不明金があるといい、組合側からも合理的な説明はなかったという。同信組の本多洋八理事長は第三者委の調査報告後に開いた記者会見で、内部調査を現在実施しており、今後結果を報告すると説明した。
同信組に対しては、東北財務局が29日、業務改善命令を出し、6月末までの改善計画の提出を求めている。財務局を監督する金融庁の担当者は読売新聞の取材に「(同信組から)今後提出される報告や計画が本当に正しい内容かどうかも含めて厳しくチェックしていく」としている。

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